「子どものころの『おいしい』体験は一生ものだから、クジラ肉を販売する側も正しい知識を得てほしい」板花貴豊さんinterview後編 | 聞く | くじらタウン

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2021.01.27

「子どものころの『おいしい』体験は一生ものだから、クジラ肉を販売する側も正しい知識を得てほしい」板花貴豊さんinterview後編

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「たくさんの人にクジラのおいしさを知ってもらいたいから、自分が販売窓口になる」。そう決意するや、サラリーマンを辞め、クジラについての見識を深めるべく調査捕鯨船乗組員となったという、“クジラのお肉のお店”『らじっく』オーナー板花貴豊さんインタビュー後半。前半では、3年弱の乗組員生活を経て念願のお店をオープンするまでについて伺いましたが、後半は、クジラ肉の普及活動に勤しんでいる今、新たに見えてきた課題や、板花さんが思うクジラ肉の魅力について伺います。

もっともおいしい状態でお客さんに提供したいから、熟成・解凍に最適な設備にこだわった

――調査捕鯨船を下りた後、すぐに物件を見つけて半年後には開業にこぎつけたとのことですが、開業の際、大切にしたことを教えてください。

「熟成および解凍に対応できる設備をきちんと用意することです。開業までの間に、熟成・解凍について書かれている論文なんかも読んで参考にしていたんですけど、肉のいい状態を保つためには、-5度から-2度くらいの温度帯で保存することなんです。適切な温度帯に保つことで、肉のうまみがドリップとともに外に出てしまうのを防げます」

汎用性が高いクジラ肉。中華料理に使っても美味!

――『らじっく』ではお弁当も販売されていますが、レシピも、乗船中に覚えたり考案したりしたのですか?

「肉の扱い方に関しては、保存方法と同じく、大学の先生が書いた文献とかを参考にしました。たとえば、臭み消しに一番いいのは玉ねぎでその次がナツメグだとか。レシピに関しては、うちの店では、クジラステーキや竜田揚げなどの定番もの以外にもいろんなものを出してるんですけど、なぜかというと、同じものばかり作っていると自分自身が飽きちゃうから(笑)赤身肉は、基本的に強火でガーッと火を通すとおいしく仕上がるので、中華にはすごく合います。回鍋肉、青椒肉絲、麻婆豆腐もクジラ肉で作ったことがあるし、あとは油淋“鯨”ね(笑)あとは、クジラ出汁でラーメン作ったり」

臭みがなくてやわらかなクジラ肉は、小さな子どももお年寄りも大好き

――いろんなメニューがあって、小さな子どもでも楽しく食べられそうですね。

「うちの子もクジラ好きですし、学校帰りに友だちを連れてきたときには、友だちにも食わせてますよ。みんな『うまいうまい』って言って食ってます。子どものほうが抵抗がないみたいですね。一番抵抗があるなと感じるのは、70代以上の年配の方。キッチンカーでいろんなところを回っていても、その世代の方たちは、子どものときに食べていたクジラ肉が硬かったらしく、『クジラって硬いでしょ?』って話しかけてきてくれるんです。そういうときは、『絶対うまいっすから食ってみてください!』って返して食べてもらうんですけど、そうするとみんな『すごくやわらかい!』って驚かれますよ」

クジラを食べたことがない人にこそ食べてほしいから、キッチンカーやイベントでも積極的に販売

――昔のクジラ肉は臭みも強かったことから、マイナスのイメージを抱いている人も多いのかもしれないですね。そうした食わず嫌いの人たちのイメージを払拭できたらいいですね。

「そうなんです。店で待っているとクジラのことを知ってるお客さんがメインになるから、積極的にキッチンカーでいろんなんところを回ったりイベントに出させてもらったりしているんですけど、初めてクジラを食べる人が『うめえじゃねえか!』って言ってくれると本当にうれしいです。そういう人をどんどん増やしたい。だから、鯨食になじみがない地域にも行ってみたいです」

▲保育園のイベントでキッチンカーを出店する様子(写真中央)

小さいころに「おいしい」と思えたかどうかはすごく大事

――地域によっても差があるでしょうね。

「僕は1982年の ※商業捕鯨モラトリアムの年に生まれたんですけど、それもあってか小学校の給食ではクジラが出なかったんです。でも、保育園のときにクジラ汁が出てて、それはすごくうまかった記憶があります。保育園児ながらに、皮の部分にはうまみがいっぱいでしゃぶるとうまいと思っていました。保育園児にクジラ汁って攻めてますよね(笑)今考えると、調理師さんの中に東北出身の方がいたのかもしれないです。そうやって子どものころに食べて『おいしい』ってことを覚えると、全然違いますよね」
※商業捕鯨モラトリアム:IWC(国際捕鯨委員会)によって採択された、商業捕鯨を一時停止とする取り決め

保育園のイベントでも、キッチンカーでクジラ肉を提供

――板花さんも、子どもたちに食べてもらうための施策など考えていますか?

「現在は、保育園のイベントにキッチンカーでお邪魔して料理を振る舞わせていただいてます。その保育園は、これまでにもちょっとした会議なんかでうちのお弁当を頼んでくれているんですけど、子どもたちも喜んでくれるので嬉しいです」

▲保育園で子供たちにクジラのお話をする板花さん

板花さんが保育園の子供たちにクジラのことを伝える会の様子はこちら
保育園の子供たちが鯨食文化に触れる! クジラを知って・食べて、楽しむ会が開催

まずは食べてみて、「おいしい!」を実感してほしい

――クジラについてみんなに伝えたいことはありますか?

「まずは、おいしさと栄養価の高さを知ってほしいです。クジラってタンパク質豊富だし、抗疲労成分・バレニンをはじめ身体にいい成分をたくさん含有しています。今のクジラ肉って昔と比べてはるかに高いじゃないですか。そうなるとやっぱりみんな、それでも食べる付加価値を知りたいと思うんですけど、そこが栄養価なんじゃないかなと。あとは、海の生態系のトップにいるクジラを資源管理することの大切さについても、少しでも考えてもらえたらうれしいですね。人間だって、いろんな魚を食べている以上、海洋生態系に関わっているのだから」

流通に携わっている人たちにも、正しい知識を伝授したい

――そのために、販売する側として力を入れていきたいのはどんなことでしょうか?

「流通に携わっている人たちに、クジラ肉の正しい扱い方を伝授する教室を開催したいです。それが一番、効果がでかいと思うんです。お客さんがどういうところでクジラ肉を買ってくれる可能性が高いかといったら、数で見ると、僕のとこのような個人店より圧倒的にスーパーのほうが多いですよね。で、そういったところで購入したクジラ肉がおいしくなかったら、もう二度と買わなくなると思うんです。でも、スーパーの鮮魚コーナーを回している人たちは、僕より若く、クジラ肉を食べたことがない人も多いと思う。クジラを食べずに育ってきた人たちに、クジラ肉のおいしさやおいしく保つ方法をしっかり伝授することで、一般消費者にももっとおいしいクジラ肉が届くようになると信じています」

▶板花貴豊さんのinterview前編
「たくさんの人にクジラ肉を食べてもらうため、まずはクジラについて知ろうと捕鯨船の乗組員になった」

■板花貴豊さん
元調査捕鯨船乗組員。現在は鯨食専門店「らじっく」を営む。

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