「クジラの本当のおいしさを知ったのは大人になってから」森嶢至さんinterview前編 | 聞く | くじらタウン

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2021.02.17

「クジラの本当のおいしさを知ったのは大人になってから」森嶢至さんinterview前編

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昭和55年の創業以来、「あなたの町の魚屋さん」をモットーとして掲げ、一人ひとりにとっての近所の魚屋さんに負けない安さと手軽さを目指し、よりよい商品をお客さんに届け続けている「寿商店」。鮮魚の卸売りの他、名古屋を中心に飲食店12店舗を展開する同社の代表を務めているのが、名古屋近郊で生まれ育った森嶢至(たかし)さんです。近年は、スタッフとして寿商店を一緒に盛り上げている娘の森朝奈さんともどもメディアからの注目度も高いので、「テレビで観たことがある!」という人も多いのではないでしょうか。同社が展開する飲食店では、地元・名古屋だけでなく、全国、そして海外のうまい海産物を提供しているということで、連日、多くのお客で賑わっていますが、その中でも嶢至さんが特に力を入れている食材のひとつが、クジラです。そこで今回は嶢至さんに、クジラに魅了されたきっかけをはじめ、クジラにまつわるエピソードをうかがいました。

魚屋の仕事を始めて約40年。一回も休むことなく、自ら仕入れに出向いている

――まずは、これまでのご経歴を簡単に教えてください。

「高校卒業後すぐ、スーパーマーケットのテナントだった魚屋を紹介してもらって働き始めたのがキャリアのスタートです。実家は名古屋の漁港近くにある魚屋の卸で、見よう見まねだけど小さいころから魚の目利きはやっていたんですよ。家業を継いだのは兄。自分は次男だったから18で家を出て働き始めてね。その後、今の仕事を始めたのは今から40年前くらい。当時から今に至るまで、仕入れは一回も休まず自分でやっているよ。あとは、各店に食材配送の指示を出したり、各料理長に「こういうの作って」ってお願いしたり。魚の卸業と飲食業と両方ともやっているんだけど、自分がハード面担当でソフト面は娘(森朝奈さん)が担当。僕はどっちかっていうと現場担当だね」

調査捕鯨終了にともない初めてニタリにトライして、想像以上のおいしさに驚かされた

――寿商店といえばクジラを扱っていることでもよく知られていますが、クジラはどこから仕入れているのでしょうか?

「共同船舶(株)からニタリクジラを仕入れています。おととしまでは(調査捕鯨で捕れる)南極海のミンクだけだったんだけど、今はそれを仕入れられなくなったからニタリだね。うちはもともと南極海のミンクを扱っているのが売りだったんで、南極海で捕れなくなったらもうだめだと思ってたんだけど、ニタリは想像以上においしかった。びっくりしたね」
※日本は1986/1987年漁期を最期に南極海での捕鯨操業を取りやめた。1987/1988年以降は南極海で、1994年以降は北西太平洋でそれぞれ調査捕鯨がおこなわれていたが、2018年12月26日、日本はIWCからの脱退を発表。翌2019年7月1日からは、日本の領海とEEZ内に限定して大型鯨類の商業捕鯨を対象とした捕鯨業を再開している。

地球上で一番安全な無菌状態の地域から届くミンクは海からの贈り物だと思ってた

――どうして南極海のミンクにこだわっていたのですか?

「地球上で一番安全な無菌状態の海で、オキアミしか食べずに暮らしているクジラを食えるのって人間だけでしょ? こんなすごい海からのプレゼントはないと僕は思うんだよね」

――でも、食べてみたらニタリも意外とイケた、と。

「そうなの。びっくりしたよ。食べる前は、『ニタリかあ……』って思っていたけど、実際食べてみたらおいしくて。味のクオリティはミンクと変わらんくらい。でも、発色はミンクより劣るね。ミンクはアスタキサンチン豊富なエサを食べている分、やっぱり色鮮やかだよね」

クジラを食べるのは人間だけ。適度に捕って間引くことも生態系を守ることにつながる

――では、調査捕鯨は続けてほしかったですか?

「賛成派、反対派いろんな意見があると思うけど、自分としては調査捕鯨の再開には清き一票を入れたいね。もう一度チャレンジしてほしい。IWCを脱退したからできないってことはなくて、独自にいけばいいと思う。誰に文句言われることもないし。それに、これも僕の考えだけど、クジラって人間しか食べないものだから、適当に捕って間引くことも大事。結局はそれが生態系を守ることにつながるから」

小さいころ食べたクジラがとにかくまずくて、いい印象を抱いていなかった

――寿商店でクジラを扱い始めたきっかけを教えてください。

「きっかけとなる出来事があったのは12、13年前ですね。クジラって僕ら世代だと小さいときに食べたことがある人が多いと思うんだけど、あるとき、クジラを食べたことがない人に『嶢至君、あんたクジラについてはどう思う?』って聞かれたんですよ。『クジラを食べるのはいかんことだっていう人もいるけど、実際のところどうなのか一回調べてみたら? それに、近頃はどうやらすごくクジラが余っとるらしいよ』って。でもね、当時の僕は、子どものときに食べたクジラがまずかったイメージしかなかった。だから、今もう一度食べてみるなら、日本で一番おいしいクジラを食べてみなきゃ! って思って、行ってみたのが大阪の『鯨料理 徳家』(現在は閉店)だったの」

正しい方法で解凍すれば、クジラの肉は驚くほどやわらかくおいしくなる

――『徳家』では何を食べたんですか?

「ハリハリ鍋を食べたんだけど、そしたら、ええっ!? って度肝を抜かれたの。待てよ!? クジラ肉って固いと思っていたけどこんなにやわらかいの!? って。そこで初めて本皮っていう部位を知って居てもたってもいられなくなって、今度は東京の『勇新』っていうお店に行ったの。そしたらやっぱり別格。俄然興味が沸いて自分でもクジラ肉のおいしい食べ方を試行錯誤するうち、解凍方法が一番の要だとわかった。適切な方法で解凍すれば、本当に柔らかくておいしいクジラ肉を楽しめるんですよ」

「クジラは固くてまずい」は思い込みだと気づいたことで、ビジネスとしての可能性を見出せた

――クジラのおいしさに目覚めたことで、クジラへの関心も高まりましたか?

「そこからビジネスとして本格的に考え始めましたね。自分の世代にとっては『固くてまずい』っていう先入観がありすぎる食材だったから、これだけ落差があればいけるんじゃないかと思ったし、35歳以下の(商業捕鯨が停止となってから再開までの期間でクジラを食べる機会が少なくなった)人にとっては初めて食べる食材になるわけだし。僕が子どものときに食べたクジラベーコンなんて、脂焼けしているわ固いわですごく印象が悪かったけど、自分でベーコンを作ってみたらびっくりするくらいおいしかったしね」

▶森嶢至さんinterview後編 
「初めてクジラを食べるなら、本当においしいものを食べてほしい」森嶢至さんinterview後編

■森嶢至さん
株式会社寿商店 代表取締役社長。昭和55年創業。愛知県名古屋市に本社・本店を構え、鮮魚の卸売りの他、名古屋市を中心に飲食店12店舗を展開。

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