日本のお正月の定番といえば色とりどりの「おせち料理」。おせち料理には五穀豊穣、子孫繁栄、家族の安全と健康などの祈りが込められており、食材にはそれぞれ意味があると言われています。
たとえば、黒豆は達者（マメ）に１年中元気に働けるように、栗きんとんは漢字にすると“金団”になることや黄金に輝く様子が財宝に見えることから金運アップの願いがこめられ、数の子は沢山の卵がついていることから子孫繁栄、紅白のかまぼこは形が日の出に似ていていることから新年に欠かせないと言われ、赤のかまぼこにはめでたさや喜び、魔除けの意味があり、白のかまぼこには洗浄や神聖さといった意味が込められていると言います。
様々な地域で、その土地ならではの食材を使用したお正月料理があり、クジラもその中の１つです。

長崎のお正月には欠かせない鯨

長崎には江戸時代日本最大の鯨組があり、産地に近く、新鮮な食材が手に入ったことから長崎では鯨食文化が発展しました。日本一クジラの消費量が多いといわれているのが長崎で、名物の「卓袱料理（しっぽくりょうり）」にも鯨が使われています。
長崎のお正月に欠かせないのがクジラ料理で、年末になると街中で山積みになって売られるほど年末年始に欠かせない食べ物となっています。
お正月にはクジラのような大きなものを食べることで「太く長く生き抜く」という願いがこめられ食べられています。
中でも長崎ならではのお正月料理は「白手物」と呼ばれる「末広（すえひろ）」や「百尋（ひゃくひろ）」といった内臓等を茹でた料理があります。

末広は畝須（うねす）というクジラのおなかの部分にある部位で、ベーコンが有名です。茹で畝（ゆでうね）はその断面が末広がりになることから縁起がよいとされています（写真左）。スライスして辛子酢味噌やポン酢をつけて食べます。クジラの脂の旨味と辛子酢味噌やポン酢のさっぱりした風味が相性抜群の一品です。

百尋はクジラの小腸にあたる部分で、尋（ひろ）は昔日本でも使われた長さの単位で両手を広げた長さです。鯨の小腸は百尋もあるほど長いというところから名付けられました。そのことから「クジラの腸のように長生きできますように」との願いを込め、酢味噌や生姜醤油、からし醤油を付けて食べます。独特のコリコリした食感と風味が特徴的で、高級珍味としてお祝いの席でよく食べられています。

他にも珍味として鯨の小髭（こひげ）と呼ばれる歯茎や、姫わたと呼ばれる食道部分、クジラの第１胃袋の百畳（ひゃくじょう）など、希少性が高くめったに食べることができないような部位もお正月に食べられています。

尾羽を食べる鹿児島のお正月

鹿児島でも「大きいものを食べて邪気を払う縁起物」としてお正月に食べる習慣があります。
年末年始の鹿児島のスーパーには「尾羽（おば）」や「さらしくじら」と呼ばれる、クジラの尾びれを薄くスライスして茹でたものが並びます。白く見た目が雪や花のように見えることから「おば雪」や「花くじら」とも呼ばれ、酢味噌やポン酢でいただきます。

北海道のお正月の定番「鯨汁」

「鯨汁」は北海道の函館などの道南地域のお正月に欠かせない料理です。

鯨汁は、「鯨のように大物になれるように」との願いを込めて、大晦日やお正月に食べられてきました。道南地域では江戸後期から明治時代のニシン漁が盛んだった時に、 “ニシンを岸に追い込んでくれる”クジラは、縁起の良い動物として崇められ、ニシンの豊漁を祈願するため、正月に食べられてきたとも言われています。「鯨汁」には“塩くじら”と呼ばれるクジラの皮を塩蔵したものを薄くスライスして塩出ししたもの使用し、作り方は地域や家庭により塩味、醤油味、味噌味のバリエーションがあります。栄養価も高く、寒い北海道の冬を乗り切るためには欠かせない料理でもあったのではないでしょうか。

お正月という大切な日に食べられるクジラ料理を通して、クジラが日本の食文化に深く根付いてきたことが良くわかります。

今年はいつもと違ったお正月として、食卓にクジラを取り入れてみてはいかがでしょうか。

▶関連URL
日野商店（写真提供）
くじら日和：https://kujirabiyori.jp/

鯨汁レシピ
https://www.kujira-town.jp/eat-recipe/japaneses/3472/

お正月くじら料理レシピ
https://www.kujira-town.jp/news/20221227_221227/
https://www.kujira-town.jp/news/20221227_221227/