【クジラ探訪記⑧】宮城県・石巻市 鮎川㊦(日刊水産経済新聞2022年2月4日掲載) | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2022.03.11

【クジラ探訪記⑧】宮城県・石巻市 鮎川㊦(日刊水産経済新聞2022年2月4日掲載)

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▶連載 ⑧
震災以後、半島一丸で協力「基地式捕鯨の町㊦」
継承される「鯨食文化」

ボランティアを受け入れる、鮎川まちづくり協会の齋藤富嗣代表は、「ホエールタウンおしか」に計画段階から携わった。
 ワカメ養殖と飲食店経営をしている齋藤代表の父親は南極海捕鯨に従事していた。鮎川の捕鯨文化を語るには「ホエールタウンおしか」の施設なくしては考えられなかった。「食卓と生活を支えてきた捕鯨文化を後世に伝えていく。やっと第16利丸が修復・公開された。ここからまた新たなスタートが始まる」と語る。
 東日本大震災前、半島の各浜はある意味保守的だった。「アナゴやホヤなど雑煮のダシも異なる」というほど、それぞれ特徴ある水産物を生産販売し成立してきた。しかし震災後は、クジラだけでなく、ギンザケ、カキ、ホタテ、ホヤ、ワカメなど一丸となって売り出していこうと取り組み始めた。鮎川に来る観光客も大型バスによる団体旅行から、乗用車などで家族や友人と訪れる個人旅行が増えている。交流サイト(SNS)の時代、情報は行き届いている。
 齋藤代表は、「おいしいものはある。鮎川を訪れる人が好きと言ってくれる風景や環境、町の人などを大事にしていかないといけない」と語る。

▲まちづくり協会の齋藤代表
▲第16利丸の展示公開を祝うイベント

石巻市の中心に絶品のサエズリ

2021年11月に開かれた「全国鯨フォーラム2021石巻」。関連して開かれた「お得に鯨料理を食べよう! 石巻くじらフェア」。リーフレットは飲食店31軒の鯨料理飲食店を紹介する。
 石巻の夜。市中心部「魚料理 鳥厚」を訪ねた。店主の近藤厚さん。鮎川で獲れる生鯨肉には、色合い、味わいなど、品質の高さに信頼を置く。
 購入して帰りたいと思うほどおいしかったのはトロリと軟らかく、独特のうま味がたっぷり、ジューシーに炊かれたサエズリ(舌)(1320円)。一度食べたら、また食べたいと思うほど何とも言えない独特のうま味とトロリとした食感。店を構えて44年。11年前、店舗は津波で被災したが、「うまいものを提供していく」と店を開け続ける。

▲「鳥厚」の近藤店主
▲じっくりと煮込まれたおいしいサエズリ

盛況の中国料理・揚子江

石巻市中心部から少し離れた東部。旧北上川の東岸にある中国料理「揚子江」(今野美穂社長)の店内は昼前にはほぼ満席だった。連日、その味を求めて多くの来店客が訪れる。
 07年に石巻で第1回「全国鯨フォーラム」が開かれるのに合わせて「石巻クジラ焼売」(一個132円)を開発した。その後、震災で被災した。今は「クジラのハリハリ担担麺」(1100円)も提供する。

▲揚子江店舗(21年3月リニューアルオープン)
▲揚子江の今野社長

鮎川で鯨肉に魅せられた

釣りをしに鮎川に行った今野社長。持ち前の好奇心からクジラの解体を何度か見学。「解体したての命のぬくもりの温かな鯨肉」。石巻にはすごい文化があることに気が付き、鮎川で出会った鯨肉に魅せられた。
 「生臭さなどもなく、おいしい」鯨肉は豊かな海の恵みを力強く感じさせる。一度も冷凍しない生肉を使い、石巻ならではの鯨料理が提供できると考えて「クジラ料理を伝える会」に加盟。中華料理での加盟は初だった。「クジラの味を知り、食べ方を知ってもらいたい」と活躍する。
 父親の友人の例として、「病人の体力回復にも高タンパク、低脂肪の鯨肉スープが有効だと聞いている」と、おいしさだけでなく、健康面の素晴らしさもアピールする。
 中華と鯨料理。最初はピンとこなかったが、同店で「クジラのハリハリ担担麺」と「石巻クジラ焼売」を食べて、改めて鯨肉が万能の食材であることに驚いた。
 担担麺は赤肉の竜田揚げが3枚。クジラ焼売も1つ入る。シャキシャキのミズナとの相性も抜群。濃厚なゴマ風味、絶妙な辛さのスープで鯨肉を引き立てる。
 クジラ焼売は外側がパリパリの揚げシューマイ。丁寧に包まれたあんは、ジューシーでスパイシーな味わい。

▲「揚子江」のクジラのハリハリ担担麺とクジラ焼売

中華と鯨肉の相性は抜群

担担麺、シューマイとも鯨肉になじみが薄い若い人も含め幅広い年齢層から支持されている。
 「若い人に食べてもらわないと、鯨食文化は守れない。時代に合わせた料理を開発していくことが必要だ。今後は肉のうま味を逃さない低温調理も研究したい。熟成肉は中華のタレとも合うと思う。新しい鯨料理を作り、クジラの魅力を発信したい」と今野社長は話した。
 鮎川を母港に第3大勝丸(19トン)、第8幸栄丸(32トン)で、「貴重な水産資源を自社で大切に加工。海の豊かなおいしさを伝えたい」と捕鯨業を営み、直売所での販売も行う(株)鮎川捕鯨(伊藤信之社長)。加工場はオゾン発生装置を整備、汚染区と清浄区を分けるなど、これまで以上に衛生管理を充実させた。昨年はシケが多く操業に苦労した。新型コロナウイルス禍だが、鯨肉のニーズは高い。「卸から足りないとお叱りを受けた。需要はある。しっかり捕獲したい」と伊藤社長は話す。
 直売所では生肉のほか、ベーコン(ナガスクジラ70グラム1000円)、缶詰(ミンク大和煮450円)なども販売。「ミンクが揚がると購入希望のお客さんの反応がすごい。地元の人はキロ単位で購入していく」という。伊藤社長の家では祖父の代から続く前浜の資源を生かした生業。震災後、高卒で入社した社員もいる。「私たちはしっかりとクジラを獲る。安全・安心なクジラを流通させる。おいしいと言ってもらえるクジラを提供していく」と伊藤社長は話す。
 鯨食文化は継承されていく。

▲捕鯨砲が出迎える鮎川捕鯨直売所
▲フォーラム後、エクスカーションで説明する伊藤社長

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