【クジラ探訪記②】長崎県・東彼杵町(日刊水産経済新聞2021年12月13日掲載) | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2021.12.22

【クジラ探訪記②】長崎県・東彼杵町(日刊水産経済新聞2021年12月13日掲載)

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▶連載 ②「 東彼杵町/江戸から続く「鯨の市」 」

開祖は大村藩士・深沢義太夫

長崎県の空の玄関(長崎空港)から北へ10キロほど。東彼杵町は、穏やかな大村湾の東に位置する人口約7,600人の静かな町だが、長崎市から京阪・東京に通じる「長崎街道」と県北に通じる「平戸街道」が交わる交通の要所で、江戸から幕末まで一大宿場町として賑わった。クジラとの関わりは江戸初期から。大村藩士だった深沢義太夫(1584~1663)がクジラ漁に進出、交通の要の当地にクジラの市を開いたことによる。
 紀伊・太地で当時最先端だった網取り式捕鯨を学んだ義太夫は、当地を中心に北部九州の西海漁場で捕鯨を開始。その後の300年間、北九州随一の隆盛を誇った捕鯨産業の基礎を築いた。西彼杵半島沖から五島、壱岐、対馬に至る各浜で捕獲、解体されたクジラを東彼杵に開設した市に水揚げし、街道を通じて近隣一帯へ販売。クジラ食の土台を築いた。義太夫は捕鯨で莫(ばく)大な財をなし、東彼杵のかんがい施設(四ツ池)をはじめ壱岐など北九州各地の堤防や寺への寄進に私財を投じ、町の礎を築いた偉人として今なお町民の誇りとなっている。

▲東彼杵の情報発信基地、道の駅「彼杵の荘」
鯨をモチーフにした大きな看板が注目を集める

西海捕鯨の集散地 鯨食がしっかり定着

江戸から大正期まで、300年以上の間、クジラの集散地として栄えた東彼杵だが、幕末の資源減少やノルウェー式捕鯨の導入により水揚地が福岡、下関などへ移転。この半世紀は欧米の反捕鯨運動の影響もあり、往時の捕鯨業の隆盛はみられない。しかし、その間に根を張った鯨食文化はしっかり定着。長崎県では、流通も消費も昔と変わらず現在も盛んである。東彼杵町周辺では一般家庭の欠かせないメインの食材としての鯨食が煮物に揚げ物に炊き込みご飯に根付いている。
 江戸から続くクジラの市を守るのは、彼杵鯨肉(株)(1950年創立、板谷康司社長)。JR彼杵駅に近い社屋で今も毎月1回クジラの入札会を開催。並ぶのは共同船舶扱いが約6割、アイスランド産・国内沿岸物が各2割ほど。「ピーク時には約30人、30トンが集まった入札会も今は10分の1の規模」(板谷社長)だが、近隣に鯨食が根付いている限り事業は欠かせない。

▲江戸時代から続く「クジラの市」を守る
彼杵鯨肉の直売所の前で板谷社長

ソウルフード「湯かけくじら」

東彼杵周辺でのクジラはごく普通の家庭料理。中でも第一に挙げられるのが「湯かけクジラの酢味噌あえ」。湯かけクジラとは、日もちのする塩蔵のクジラの皮(脂肪)を丁寧に塩抜きしたうえで、湯引き・薄切りにし酢味噌であえた一品で、軟らかい脂のうま味がクセになる一品。冷蔵庫のない時代でも90日以上、保存できたため、貴重なタンパク源として街道沿いに広まり、周辺の家庭では今でも欠かせない食として食べられている。
 彼杵鯨肉では地元の湯かけ用、隣の嬉野地域の野菜と煮込む煮物用として広く利用される「皮」を中心に、約50種の加工品を製造。地元の小売店をはじめ、九州各県の卸売市場、食品問屋に卸販売している。この2年はコロナ禍による飲食店の営業自粛で業務筋の消費が低迷したため、初の試みとなる市販向けの新商品「鯨くんせいセット」を商品化。3年前から始めたネット販売を本格化させるなど、拡販にも取り組んでいる。

▲彼杵名物「湯かけクジラ」を手にする佐藤係長

多様な商品40種が並ぶ

東彼杵の情報発信の場である、道の駅「彼杵の荘」には他地域では見かけることのない、多様なクジラ商品が揃っている。彼杵鯨肉のほか町内のクジラ加工販売3社の加工品やクジラの軟骨を原料にしたかす漬「玄海漬け」「松浦漬け」など「コリコリした食感を楽しむ加工品」が約40種も並び、クジラを食べ慣れている近隣の需要に応えている。
 物販施設の隣にある食堂「彼杵の荘」では、地元のソウルフードである湯かけクジラと赤肉を使った「くじら炊き込みご飯」、オメガ3のヘルシーな脂分が多い「皮」を入れて煮込んだ「くじらだご汁」などを手軽な600~700円台のセットメニューで提供。近隣客の人気を呼んでいる。県外の観光客からのリクエストを受けて、長崎名物「ちゃんぽん」に湯かけクジラをトッピングした「くじらちゃんぽん」をメニュー開発するなど拡販努力も怠らない。平日は近隣の中高年夫婦、休日は若者、家族連れなどで賑わっており、「彼杵の荘」佐藤正一係長も「東彼杵は彼杵茶が有名だが、古くから関わりが深いクジラも名物として定着させたい」とアピールに余念がない。

▲「彼杵の荘」の商品群。約40種類の製品が並ぶ

豆知識

東彼杵町は伝統のクジラ食をお茶と同様に町のシンボルにしたいと力を入れている。10年ほど前からクジラを使った「家庭のクジラ料理」を町民から募集。選ばれた「くじらの春巻き」「ぼうぶら(カボチャ)ずうし(おじや)」「竜田揚げ」のレシピをリーフレットに掲載。町の関連施設に配布し、家庭でのクジラの積極利用を呼び掛けている。また、学校給食センターでも町内小中学校3校の全学年を対象に一学期に1回、クジラの給食約600食を提供し始めた。県でも年2回のクジラ給食を実施しており、日頃からクジラを食べつけている児童生徒が多いからか、大好きなカレーにクジラを入れた「くじらカレー」を望む子供たちの声が大きく、給食センターはメニュー化を急いでいる。次世代へ鯨食継承が進んでいる。

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