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2021.10.27

【クジラ探訪記①】日刊水産経済新聞掲載

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▶連載 ①「クジラ探訪記南房総に根付く食文化」

首都圏唯一のクジラの町・和田浦を歩く

東京から車で2時間ほど。太平洋を望む千葉・和田浦は典型的な南房総の漁村だ。普段は静かな漁村が一変するのが夏場。今年の観光客は、新型コロナウイルス禍で少なめだが、いつもの夏は海水浴やマリンレジャー客で賑わう。
さらに活気をもたらすのが、夏に最盛期を迎えるツチクジラの解体だ。捕鯨会社・外房捕鯨がツチクジラを捕獲すると、一定時間熟成させたあと漁港内で解体する。ブログを通じて事前予告もあるため、多くの観光客がダイナミックな解体シーンを目当てに集まる。解体後には飲食店向けや一般向けに直接販売され、近所の住民がバケツを持って買いに来る。

▲漁港内で解体される様子

南房総で「タレ」といえば、焼き肉でもすき焼きでもなく、クジラのタレである。といっても液状のそれではない。スライスしたツチクジラを醤油とみりん、酒、ニンニク、ショウガなどの特製のタレに漬け込み、天日干しする。
江戸時代から伝わる郷土料理だ。昔ながらの硬いタイプもあれば、最近は軟らかく仕上げるものも増えてきた。和田浦付近の住民にはその家ごとの「タレの味」がある。塩ベースや甘め、辛めのものなど郷土の伝承だけでなく「わが家の味」として受け継がれてきている。

▲タレを干す様子

駅前から港まで町中のモニュメントや壁画のモチーフはあれもこれもクジラ。クジラとともに生きてきたこの町ではクジラを食べさせる店や民宿に事欠かない。
目を引くのが、創業80年の老舗「うなぎ 新都」。古民家を移築したという和モダンな店は、東京や金沢などの日本料理店で腕を磨いた長島富郎店主がUターンして店を切り盛りする。店名を冠するうな重とクジラ刺身のセット「新都セット」(並=3,970円)は、地元の飲食店や宿泊施設が中心となり、クジラにまつわるメニューを作ろうというプロの取り組みの中で生まれた。
刺身はミンクを使うことが多いが、竜田揚げはすべて地元水揚げのツチクジラを使用。口に運ぶと非常に軟らかい食感。肉質のよいツチクジラを仕入れている。筋繊維の方向に注意を払い包丁を入れる。軟らかさや、味の染み具合にこだわりを感じる一品だ。「子供の頃によく食べた。加熱すると軟らかく、深い味わいになる」(長島店主)。40代半ばの店主の言葉は少ないが、地域の食の力に入れ込んでいることを感じさせる。

▲人気の「新都セット」と竜田揚げを前に、うなぎ新都の長島店主

水揚げ後に活気づく町

和田浦最大の商業施設で、目の前にあるシロナガスクジラの骨格標本(レプリカ)や鯨資料館が隣接する「道の駅 和田浦 WA・O!」の売りもクジラだ。
ツチクジラの水揚げがあった日は、早朝でも深夜でも山口愛美統括マネージャーに電話連絡が飛び、一頭当たり20~30キロの鯨肉を卸す。職員が手分けして一般家庭に使いやすいよう1キロ以内に切り分け、当日限定で冷蔵販売。地元はもちろん、最近では情報を聞きつけて千葉全域から買いに来る客も増え、根強い人気がじわりと拡大しつつある。購入客には「つち鯨の美味しい食べ方」のプリントも配布し、家庭での食べ方も積極的に提案している。

▲水揚げ当日には生肉が店頭に並ぶ

店舗内の飲食店では刺身、竜田揚げ、カツが乗った「和田浦特製くじら丼」をはじめ多様なクジラ料理を味わえる。素材はすべてツチクジラだ。軽食として提供する「くじらコロッケ」は一日に1500個を売り上げたことも。鯨肉を増量したカレー味も徐々に人気を増しているが、現在の注目は、昨年から販売して人気を博す「鯨ソーセージ」だ。

▲若者向けに開発したソーセージ

同じく千葉に拠点を置く(株)マザー牧場と共同開発した。取材当日も土産品は売り切れ状態。「何とかして若い世代に食べてもらいたい思い」(山口マネージャー)から生まれた。見た目はレバーソーセージのようだがツチクジラを使用しているため味は意外と淡泊。お勧めの〝マヨネーズと七味唐辛子〟で食べてみるとお酒が欲しくなった。和田浦から南房総へ、南房総から千葉全域へ地域の食の発展を模索する取り組みが進んでいる。

▲ 道の駅和田浦WA・O!の山口マネージャー

豆知識

ツチクジラは、日本近海に回遊するハクジラで体長12メートル余り。ヒゲクジラのミンククジラより大きいが、国際捕鯨委員会(IWC)の管理する鯨種に記載されていないため、捕鯨禁止を免れた。イルカ漁を目の敵にする動物愛護運動の標的にもならず、淡々と商業捕鯨を続け、水揚げされ、解体され、食べられてきた。
江戸時代からの地元の食文化が残り、今また、新時代の食につながろうとしている。和田浦の地元の捕鯨会社の存在は大きい。外房捕鯨の庄司義則社長によれば、「クジラの解体は、タイミングが合えば毎年地元の小学生に見学してもらっている。全国的にみてもツチクジラを食べるのは千葉南部に限られ、人口(=商圏)としては15万人程度だろう。それでも解体後の販売には人が集まるし、解体作業は地元の雇用にもつながる。南房総のクジラのタレはナメロウと同じ郷土食だが、日持ちもする。昔と違い帰郷の土産にはならないかもしれないが高タンパク質で保存食にも向く」。クジラには大きな可能性がある。

▲解体の合間、取材に応じてくれた庄司社長
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