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2024.05.03

【くじら歴史探訪/山形編】貴重な保存食でタンパク源~これまでも、これからも鯨~(日刊水産経済新聞2023年11月02日掲載)

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山形県は、日本海に面した庄内、その東の最上、さらに南へ村山、置賜と、4地域に区分される。豊かな海の恵みを享受してきた庄内。雪深い山間部を含む内陸の3地域も古くから最上川の舟運を介して塩鯨(本皮、赤肉)を消費してきた。

大切な保存食・塩鯨

 山形県立米沢栄養大学の齋藤浩子助手は郷土料理も研究する。
 「県全体が豪雪地帯。塩鯨は保存食として大切にされた。春は山菜と、夏は鯨汁にして暑さ負けしないように食べた」と話す。

郷土料理も研究する齋藤助手

 同県南西部・小国町での郷土料理研究会(2015年12月)では、ウドと塩鯨、ニンジンを、味噌と酒かすで調味して煮物を作った。酒かすで鯨肉の臭みは薄れる。「夕食の残りは朝食で、田畑作業の昼食にも持って行ったと聞いた」。
 同県は3世代同居が多い。食文化の継承も比較的容易に思えるが、「今は食材が豊富。個食も広がっている」と齋藤助手。郷土料理継承への懸念を話した。

ぜひ残したい地域伝統食

 農林水産大臣政務官(当時)として国際捕鯨委員会(IWC)年次会合に出席した舟山やすえ参院議員。埼玉出身だが、齋藤助手の話にあった小国町に嫁ぎ、初めて鯨汁を食べた。「当初はなぜ山の中でクジラ?と疑問を抱いた」。塩蔵できる鯨肉は、山間部では貴重。最近は山間部でも食材は豊富。作る人も減って、食べる機会は減少する。「存在価値は薄れつつあるが地域の伝統食。ぜひ残したい」とコメントを寄せる。

庄内の海の幸・酒田市

 海の幸に恵まれた庄内。県西北の酒田市、1958年創業の若葉旅館(矢野慶汰社長)では、夏場を中心に味噌仕立ての鯨汁を提供する。

矢野夫妻と酒田鯨汁

 「私が作らないと鯨汁は食べられなくなってしまう。一度廃れてしまうと食文化は戻らない」と矢野あかね若女将(おかみ)。
 「旅行の思い出の一つとして、おいしい日本の食文化を経験してもらえれば」と話す。
 酒田商工会議所青年部の会長も務める矢野社長は、庄内地方の食の豊かさを話す。一方、地元庄内浜の魚介類の減少や旬の遅れなどを憂慮する。
 それでも「これからも鯨汁の提供を続けていきたい」と矢野夫妻。日本人・訪日外国人へ山形の食を伝えていく。

お殿様の街でも愛される

 滑稽な踊り「えびすくい」が大河ドラマで人気の三河武将・酒井忠次。末裔(えい)の現当主・18代忠久氏は今も鶴岡市に在住する。そのお殿様の街でも鯨汁は食される。
 祖父が魚屋をやっていたことから、魚を扱う日本料理「いな舟」を始めた山口貴子女将。6月から9月上旬まで提供する鯨汁は醤油仕立て。古くは鯨汁にクジラのコロを使ったが、酒田は干し鯨、鶴岡は焼き鯨と異なる名称で呼んだ。

山口女将
醤油仕立て鶴岡鯨汁

 「かつて焼き鯨はスーパーで山積みにされ販売されていた」と山口女将。現在はそうした風景はなく、塩皮を使い鯨汁を作る。
 「最近は観光で訪れる若い2人の注文もある」と新たな広がりも話した。
 県北の真室川町。三方を山に囲まれた町のスーパーには2種類の塩鯨があった。一つは本皮、もう一つは赤肉。
 「赤肉は、そのまま薄く切って焼き、水かけご飯などで食べる」と話すのは、真室川町立歴史民俗資料館の事務員・五十嵐博子さん。夏には弁当に入れたりもした。

2種の塩鯨を販売する真室川のスーパー
資料館の五十嵐さん

町の鮮魚店、佐藤コヨシ商店で、佐藤幸広代表が塩鯨を見せてくれた。いずれも新庄地方卸売市場で仕入れたツチクジラ。
 「(同町から)関東に働きに行った人などからの発送の注文も入る」と話した。

佐藤代表と塩鯨

洗練された新デザイン

 (株)山形丸魚(鈴木徹郎社長)の子会社・(有)シーブローズは、「地域に根づくクジラ食文化を途絶えさせない」(山形丸魚・矢野秀弥会長)と、ベーコンの加工販売などを行う。

若い人への拡販を話す安藤部長

赤と白のほか、スモークベーコン「SUUMOCK(スーモック)」を販売。洗練されたデザインの包材が注目を集める。「量販店のバイヤーも若くなっている」と、安藤裕之MS事業部長。昨年度は東北芸術工科大学企画構想学科の片岡英彦教授のゼミ学生と連携。若い世代へ広めようとユーチューバーと組んだ。
 部位別に異なる栄養成分表示は、鶴岡市の慶応義塾大学先端生命科学研究所、山形県工業技術センターとの取り組み。
 新たな販売層を狙った
「SUUMOCK」は、ビールやウイスキー、ワインとの相性もいい。新商品開発なども進めていて、今後の展開も期待される。

【豆知識】人を呼ぶ、マムロガワクジラ

4メートルを超える下顎化石も展示された

 真室川町立歴史民俗資料館(高橋剛文館長)は今夏、地元発掘のマムロガワクジラ化石113点を展示した。通常は県立博物館で展示しているが特別に里帰り。600万~400万年前は海だった同地。展示は約600万年前の地層で発掘された大型のヒゲクジラ類などの化石で、マムロガワクジラは総称だ。
 高橋館長は、「2か月余りの会期中に1860人が訪れた。町民の関心も高まり、普段は来町がない市町村からも来館した」とクジラへの関心の高さを話した。

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