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2020.11.11

鮎川の伝統工芸「鯨歯工芸品」彫師の千々松正行さんが作るハンコは、経年変化も楽しめる一生もの!

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日本人は昔から、「クジラは捨てるところがない」といただいた命を大切にして、お肉を食料としていただくだけでなく、油や骨、皮までさまざまなことに利用してきました。たとえば、ヒゲは文楽の人形に使用されていますし、油は畑の肥料にもなります。また、マッコウクジラの歯は工芸品の材料としても活用されてきました。

しかし、マッコウクジラの捕獲が禁止されて以降、鯨歯工芸の仕事はすっかり下火に。それでも、捕鯨禁止となる以前から確保していた鯨歯を少しずつ使って新たな作品を創り続けているのが、宮城県石巻市で千々松(ちぢまつ)商店を営む千々松正行さんです。

クジラの軟骨で作る「松浦漬」を作っていたおじいさまが創業した「千々松商店」

創業1928年(昭和3年)の「千々松商店」は、千々松さんで3代目。もともとは佐賀県唐津市でマッコウクジラの軟骨を原料に松浦漬を作っていたおじいさまが、当時鮎川がもっともマッコウクジラが揚がる地域だったことから、この地に越してきたのがはじまりなのだそう。以来、鮎川の海の真ん前に店を構えていましたが、東日本大震災の津波で流されてしまい、現在は、石巻市鮎川の「観光物産施設Cottu(こっつ)」内で商品販売および制作を続けています。

鯨歯のハンコは一本一本独特の模様があるのも魅力

ブローチやネックレス、根付などさまざまなものを手掛けていますが、千々松さんが特に力を入れているのはハンコ作り。「実印や銀行印は、身近に置いてもらえるし一生使ってもらえるから」とその理由を明かしてくれました。

しかし、ストックの材料で作り続けているため、既に6cm以上のサイズのものは残り少ないのだとか。「クジラには虫歯もあって、虫歯だとヒビが入っていたりしてハンコには適していないんだけど、切ってみないと虫歯かどうかわからないからその点も難点」といい、断面を見せてくれました(写真上)。クジラも人間と同じように、虫歯の痛みに悩まされることがあるのかはわかりませんが、なんだかシンパシーを感じますね。

「それとね、クジラの歯には独特の“目”があるんだけど、使い続けるうちに朱肉の油が浸透してハンコそのものが朱色に染まったときには、この模様が浮かび上がってくるのもおもしろいんだよ」。説明を受けてハンコの表面をよく見てみると、確かに美しい模様がうっすらと見えてきます(写真上)。だんだん模様がはっきりしてくるなんてなんともユニーク。経年変化を楽しみに使い続けることができそうですよね。

また、緩やかにカーブした「曲がり材」を使ったもの(写真上)は、机の上で転がりにくいことも教えてくれましたが、鯨歯ならではの特徴ですね。

ハンコ1本の制作時間は3~4日

ハンコ制作の様子/歯をカットする

マッコウクジラの歯を材料とするハンコは、歯一本につき一本しかつくれないため、お値段は決して安くはありません。オーダーが入るたびに精魂込めて掘るため、制作にも時間がかかります。「若いときだと1日あれば十分だったけど、今は3~4日かかることもあるよ」と明かしながら実演してくれましたが、象牙より硬い鯨歯は、カットする工程から高い技術がいることがわかります 。

ハンコ制作の様子/歯をカットする

しかも、電動の歯が回る音はかなり大きく耳にも負担がかかりますし、歯特有のニオイが部屋に立ち込め、これを何年間も続けている職人さんはすごいな、とただただ頭が下がるばかり。

ハンコ制作の様子/文字を掘る

続いて、「棒挟み」という器具でカットした鯨歯を固定して、サイズが異なる数本の彫刻刀を駆使して掘り進めていきます。掘り進めて屑が出ると、歯ブラシでそれを払いながら丁寧に仕上げていくため、自分が掘ったものは数年後、数十年後に見ても絶対に覚えているのだとか。

捕鯨で栄えた街で鯨歯を材料にしているからこそ意味がある

ハンコ制作の様子 /文字を掘る

「せっかくの技術なんだから、ストックが無くなったあとは木材でもなんでも材料にして掘ればいいんじゃない? って言われることもあるけど、それだと意味がないんだよね。鮎川の地で鯨歯を材料にしているからこそ、価値があることだと思ってる」。

ハンコ制作の様子 /文字を掘る

その信念ゆえ、後継者は持たない方針を貫き通しています。「息子は器用だから上手に掘るんだけど、ストックが無くなったら続けられないからね」と胸の内を明かしてくれました。

鯨歯は、身に着けたり身近に置いたりすることで魔除けにもなる

最後に、「クジラは長命だから、昔から縁起がいい動物といわれていたんだよ。鯨歯は、身に着けておくと魔除けにもなるからね」と教えてくれた千々松さん。ストックが無くなる前にハンコを作ってもらうためにも、Go To トラベルキャンペーンを利用して鮎川を訪れてみるのもいいかもしれません。とっても気さくにお話してくれるので、鮎川の歴史やクジラについても、ぜひいろいろ尋ねてみてくださいね。

■ 千々松正行 さん
1954年生まれ。宮城県石巻市鮎川浜で、鯨歯(げいし)工芸士 として 千々松(ちぢまつ)商店を営む 。東日本大震災以来現在は、石巻市鮎川の「観光物産施設Cottu(こっつ)」内で商品販売および制作を続ける。

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