「鯨肉は、触れた感覚からも色味からもアスリート向けの食材だとよくわかる」料理研究家・村野明子さんinterview | 聞く | くじらタウン

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2023.11.01

「鯨肉は、触れた感覚からも色味からもアスリート向けの食材だとよくわかる」料理研究家・村野明子さんinterview

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 “レジェンド寮母”としてメディアにひっぱりだこの村野明子さん。おいしさもバランスのよさも兼ね備えた料理でアスリートたちをサポートしているだけでなく、最近では、『株式会社Sunday Monday』の代表として、「毎日の献立をカンタン、オイシク、タノシク」をモットーに、食を通してたくさんの人に笑顔をもたらしています。しかし実は、初めて家族以外の人に毎日の料理を作ることになった20年前は、料理や栄養について学んだ経験がゼロだったというから驚きです。試行錯誤を繰り返しながら、身体が求める栄養をおいしく楽しくいただくコツを見出していった村野さんに、食に対しての想いから、クジラという食材の魅力についてまで伺います。

料理人経験ゼロの主婦から一転! Jリーグの選手たちの食事を切り盛りすることに

――スポーツ料理研究家としての道を歩むことになったきっかけは、「コンサドーレ札幌」総務部長を務めていらした旦那様から、「食生活改善でチームを強化したいから」と料理を任されたそうですね。

「そうなんです。だけど、アスリートの食事を作った経験なんてなかったから、最初は“できるわけないでしょ?”としか思いませんでした。とはいえ、限られた予算のなかでチームのためにがんばろうとしている夫の姿を見ているうちに、“やるしかない”という気持ちに変わってきました。ちょうどそのころ、出産を機に辞めていた化粧品販売員のお仕事に復帰してはどうかという話もいただいていたので迷いもありましたが、一念発起して一緒に北海道に移住して、新しい生活をスタートさせました」

毎日食べても飽きないのが家庭料理の醍醐味

――料理することはお好きだったんですか?

「そうですね。得意というわけではなかったのですが、家族に“おいしい”って言ってもらえるとすごくうれしくなるので、漠然とした夢だったけど、“将来は家庭料理を出す定食屋をやりたいな”と考えていたくらいです。ところが、いざ選手たちに食事を作ってみると、出したものを残されることが多くて落ち込みました。世の中には飲食店がいっぱいあって、ファミレスでもおいしいハンバーグが食べられるんだから、家庭料理じゃ食べてもらえないのかも……とも考えました。だけど夫に愚痴をこぼしたら、“同じ店に3日食べに行ったら飽きるけど、家庭料理はハンバーグもカレーも毎回同じ味にはならないから飽きないんだよ”の答え。もう少しがんばってみようと思えました。そこから1年経ち、2年経つうちに選手たちとうまくコミュニケーションをとれるようになって、さらに3年目にチームの寮ができて住み込みで働くようになると、みんなと疑似家族のような関係になれたし、その間に、食についてさまざまな角度から考えることもできるようになっていました」

彩りのいいワンプレートメニューなら栄養バランスもバッチリ

――料理の作り方やメニューの内容は変わっていきましたか?

「一番変化が大きかったのは提供の仕方です。選手たちのために料理を作り始めた当初は、15人分の料理を盛り付けるのが大変で大皿で出していたんですけど、そうすると煮物とサラダが残るし、魚をキレイに食べてもらうことは難しく、バランスのよい食事とはいえない状態でした。そこで、サラダ、煮物、米、魚、肉の順番に一品ずつ出していくフルコーススタイルに変えたら、バランスはとれるようになったのですが、洗い物にすごく時間がかかっていたのがネックでした。その課題解決のためにワンプレート方式に切り替えてからは、一枚でいろんな栄養を摂れることを大切にしたのはもちろん、目でも食を楽しんでもらえるように、野菜が映える調味料を取り入れるなど工夫を重ねました」

子どものころは給食の竜田揚げが大好物! 父親はクジラベーコンが大好きだった

――選手たちにクジラを提供したことはありますか?

「実は私、商業捕鯨が再開していたことを知らなかったので、鯨肉を買おうと思ったこともなく、売っていることも知りませんでした。子どものころは給食に出ていた竜田揚げが大好きだったし、父親がクジラベーコンが好きでおかずとして出てくるのが当たり前の家庭で育ちましたが、自分で調理するために鯨肉を買って触ったことは一度もありません。今回のインタビューのお話をいただいて初めて赤身肉に触れましたが、色味も触った感じもまさしくアスリート向けで、“もっと早くに知っておけば選手たちに食べてもらえたのに!”ともったいないことをしたなという気持ちでいっぱいです」

クジラは刺身も煮込みも炒め物もOKの、いろんな料理に応用できる食材

――「触った感じがアスリート向け」とはどういうことですか?

「脂肪を感じないということです。ハラミやヒレに近い感触ですね。色味の黒さからは鉄分が多いことがわかりますが、鉄分はアスリートにとってすごく重要な栄養素なので、本当に寮母だったころに料理に使えなかったことが悔やまれます。しかも、すごく使いやすいところも魅力です。牛肉を使う感覚と同じでなんにでもアレンジできるから、作るものに悩まなくていいですよね。煮込みにしてもいいし炒めてもいい、さらに刺身でも食べられるとなるとレパートリーも広がりそうです。骨がないから料理に手間もかからないし。新鮮な肉ならなるべく火を通さず軽くローストしてもおいしいし、若い子向けなら炒飯にするのがおすすめ! 特に男の子はみんな炒飯が大好きだから、クジラのキムチ炒飯にしてもいいし、餡かけにしてもいいと思います。いろんな料理に使える、すごく可能性のある食材ですよね」

クジラがもっと手軽に、いろんなところで買える食材になったらうれしい

――昨年、日産スタジアム内にオープンされた「Sunday Monday Kitchen」のメニューにもぜひいかがですか?

「食べることに関しては、知らないものに興味津々な人とそうでない人にわかれますが、前者のタイプはきっと興味を持つと思います。実際、今回ご用意いただいたクジラをスタッフと一緒に試食させていただいたところ、クジラを食べたことがない若い世代が、“クジラがこんなに食べやすいなんて知らなかった”と衝撃を受けていました。その子たちもやはり、鯨肉が販売されていることを知らなかったので、もっといろんなところで買える食材になればいいなと思います。だけど価格的に少し手を出しにくいので、もう少し手ごろになるともっといいですね」

手間も時間もかける必要はなし! ある程度の食材を冷凍庫に常備しておけば買い出しもたまにでいい

――「Sunday Monday Kitchen」には、アスリートではない一般のお客さんもいらっしゃいますが、食べにきてくれる方たちに、料理を通してどんなメッセージを伝えていきたいですか?

「食べることは生きることだから、長い目で見ると、選ぶ食材や食習慣によって心身の状態が大きく異なってきます。忙しくて料理を作る時間が十分にとれないという人も多いですが、適当なもので済ませることを毎日続けていると心も荒んでいくので、できるときだけでも、自分で作ったもの、誰かが作ったものを食べてほっとする時間を持つことは大切です。とはいえ、手間暇かけて凝ったものを作る必要はありません。『Sunday Monday Kitchen』の料理がまさにそうですが、冷蔵庫にその日ある食材でできることって意外といろいろあるんです。たとえば肉とレタスがあったとして、肉は炒めてレタスはサラダにしてもいいけど、レタススープにお肉を入れたってとってもおいしい! お店にきてくださったお客さんたちは、“あの店のメニューのデリは、いろんな野菜の組み合わせで真似したら家の冷蔵庫のロスがなくなりそう。”って言っていると思いますが(笑)、そのくらい気楽に料理するのでいいんです。栄養バランスを整えるにしても、一つひとつの食材の栄養素をチェックする必要はなく、色味のバランスをとれば自然と栄養のバランスもとれるものです。ワンプレートをカラフルにしたい時は緑が足りないならピーマンやほうれん草、赤が足りないならトマトやパプリカを足すだけでもOK! 豚肉や魚は冷凍庫に常備しておけば頻繁に買い出しにも行かなくていいし、全然難しくありません。そのなかにクジラがあってもいいし、自分の身体や心に必要なものを、“カンタン、オイシク、タノシク”とりいれていけるといいですね」

▶村野明子さん
村野明子(むらの あきこ)
化粧品会社を退社後にコンサドーレ札幌で総務部長を務めていた旦那様からの誘いで、2003年からJリーグコンサドーレ札幌で食事提供を開始。2005年には同チームの独身寮「しまふく寮」が開設され、初代寮母になり、2009年からは、ヴィッセル神戸の「三木谷ハウス」にて初代寮母を務め、トップ選手からアカデミー選手まで幅広く食事のサポートを行う。2019年よりセレッソ大阪の寮母を務め、同時に「株式会社SundayMonday」を設立し様々なジャンルのスポーツ、アスリートのニーズに応じた食のサポートを行っている。
2022年より日産スタジアム内に家庭料理のお店「Sunday MondayKitchen」をオープンしトレーニングを終えた横浜F・マリノスのアカデミー生 約100人に食事の提供を行っている。

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