【くじらの日特別企画・後編】「私たち一人ひとりが、持続可能な漁業や捕鯨について考えることが大切だと思う」ココリコ田中直樹さん×東京海洋大学助教・中村玄さんスペシャル対談 | 聞く | くじらタウン

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2023.09.06

【くじらの日特別企画・後編】「私たち一人ひとりが、持続可能な漁業や捕鯨について考えることが大切だと思う」ココリコ田中直樹さん×東京海洋大学助教・中村玄さんスペシャル対談

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9月4日の「くじらの日」を記念した、ココリコ田中直樹さん、東京海洋大学鯨類学研究室助教の中村玄さんによるスペシャル対談。前編では、おふたりがクジラに魅了されたきっかけや、クジラの気になる生態についてお話いただきましたが、後編では、東京・虎ノ門のクジラ料理専門店『鯨の胃袋』のクジラ料理をご試食いただきながら、食としてのクジラの魅力についても語っていただきます。

赤ちゃんのうちは母乳を吸えるけど、離乳すると舌の筋肉が衰えてぼよんぼよんになる

田中「先生、僕はシロナガスが好きなんですけど、シロナガスの調査に行かれることはありますか?」
中村「2018年に鎌倉に打ち上がったシロナガスの解体にも立ち会いました。シロナガスクジラといえど小さかったんで、“焼きナスみたいだなあ”と思いながら切ってました」
田中「……焼きナスだと思って切ってた???」
中村「はい、なぜかというととても痩せていたうえに、死後変化で皮は黒くカリッ、中はぐちゃっ、となっていたからです。体長10メートルくらいの個体でしたが、シロナガスの出生体長は約7メートルと考えられていますので、生後1年以内、まだミルクも飲むような赤ちゃんでした。」
田中「ミルクってどうやって飲むんですか?」

中村「赤ちゃんのうちは我々のように比較的動かせるベロがありまして、その縁にひだひだがついているので、おかあさんの乳首を巻き込むことができるんです。クジラの母乳は脂肪分が高く、びゅっと飛び出てくるのでそれを飲み込むというイメージですね。でも不思議なことに、ナガスクジラの仲間は離乳する頃になると赤ちゃんのときのように自由にベロを動かすことはできなくなります。赤ちゃんのベロは筋肉がしっかりしているんですけど、だんだん筋肉がまばらになっていって、かわりに口の奥の方にさがるようになるんですよ。ナガスクジラの仲間のベロって、いわゆる牛タンとかとは全然感触が違うんですよ。牛タンって筋肉繊維で硬いけど、ヒゲクジラのベロはウォーターベッドみたいにぼよんぼよん。食材としては“さえずり”と呼ばれている部位ですが、ボイルして食べると脂肪分たっぷりでやわらかくておいしいんです。ちなみにこのクジラの模型 (写真上) は僕が作ったものです」
田中「ええっ!? 先生が自分で?すごいですね。そして、わかりやすい!ベロが喉の奥まで入るからこんな構造になっているんですね」

飼育されていない、自然そのままの味を楽しめるのがクジラの醍醐味

中村「さえずりも機会があればぜひ食べていただきたいのですが、今日は、クジラの赤身肉のたたき(写真上・左上)、竜田揚げ(写真上・右上)、尾羽毛(オバイケ)(写真上・真ん中)を試食できるということです。たたきはイワシクジラ、竜田揚げはナガスクジラ、尾羽毛はミンククジラなのでぜひ食べ比べてみてください」
田中「鯨種によって味が違うんですか?」
中村「違います。ヒゲクジラは生食、ハクジラは加熱調理に向いているように思います。でも、部位によっても違うし、好みも人それぞれなんじゃないでしょうか」

クジラの赤身肉のたたき

田中「うわあ、赤身肉おいしい! やわらかいですね。おいしい。居酒屋のメニューにあったら頼みたいです。でも、“クジラです”って言って出されないと何の肉かわからないかも」
中村「逆に、クジラの生肉を食べたあとに牛を出されると、牛のほうに独特のニオイを感じたこともありました。私たちは牛肉のニオイに慣れているけど、クジラは人に育てられているわけじゃない、自然そのままの味だからやはり違いますよね」
田中「確かに。僕のなかではクジラというとベーコンだったから、イメージが変わりました」
中村「ベーコンはいろんな加工するから、元々の味が残っていないことも多々あるんですよね」

竜田揚げ
尾羽毛

尾羽毛(オバイケ)は、「クジラをいただいている感」を堪能できる部位だと思う

中村「僕は留学先で、いろいろな国からの留学生とともにクジラを見ていた際、日本が捕鯨することについて非難や質問をされました。ただ、僕自身は1983年生まれの埼玉育ちで、86年からは商業捕鯨モラトリアム(一時停止)が可決されていたこともあってクジラを食べたことがありませんでした。そのため目の前で泳いでいるクジラを見ても“わざわざ野生動物を捕まえて食べなくてもいい”くらいにしか考えていませんでした。ところがその数年後、調査捕鯨の現場で食べたクジラの刺身がとても美味しくて、この味は多くの人に知ってもらいたい!と認識を新たにしました。結構現金なんですね人間って。でも、食べてみないとわからないことってありますよね」
田中「確かにそうだと思います!竜田揚げも久しぶりに食べたら印象が変わりました。もっとクセがあったような記憶があったんですけど、調理の仕方とかで違うんですかね?」
中村「それもありますし、冷凍・解凍の仕方によっても違ってきます」
田中「尾羽毛は尾の部分ですよね? 箸で掴んだだけでもプルプルしてる感じが伝わってきますね」
中村「尾びれのなかには骨がありません。尾びれは私たちがダイビングで使う足ひれのように弾力があり、コラーゲンたっぷりです。よく見ると断面にコラーゲンの繊維が見えますね」
田中「うわ、これはおもしろいですね。噛むと最後に、口のなかにぱーっとクジラの風味が広がるというか」
中村「水族館のイルカ水槽がフラッシュバックするような」
田中「なんかちょっとわかります!水っぽさというか。酢味噌と合いますね、これ。クジラの風味とのバランスがいいです」
中村「他にはなかなかない食感と風味ですよね」
田中「ないです。“クジラをいただいている感”が一番あるかもしれない。いいと思います!」
中村「自分が一番好きなクジラ料理は刺身ですね。赤身肉と皮を交互に並べた“紅白作り”で、生姜醤油とすごく合うんですよ。死ぬ前に最後に食べたい料理です」
田中「まじですか!……世界中に何人いらっしゃいますかね?最後の晩餐は紅白作りがいいって人……」

海の生き物が減っていることを、みんなにも自分事として考えてほしい

中村「田中さんは日本の捕鯨においても持続可能性が保たれていることはご存知かと思いますが、捕鯨に関してはどんなお考えですか?」
田中「日本には日本の考え方があって、日本とは違う考えの国もありますが、まずは、地球環境や生態系の変化にきちんと目を向けて、バランスをとることを考えていくことが大切だと思います。海の生き物はこの50年間で50%以下に減ったということを聞いてすごくショックを受けたんです。この状況が改善されないままだと、今後もいなくなってしまう生き物が出てくるわけだから、そうなる前にみんながこの問題を自分事としてとらえてほしいなと思います。海の生き物が減ることは自分たちとは関係ないことのように思う人もいるかもしれないけど、それによって、地球環境も含めた全体が変わってくるってことだから、まわりまわって自分たちの生活にも必ず影響を及ぼしますからね」

北半球と南半球ではクジラの大きさが違う

中村「今後、クジラに関して叶えたい夢はありますか?」
田中「僕が一番好きなクジラがシロナガスなので、スリランカのシロナガスクジラツアーに参加したいです。つい2か月ほど前、女性海洋生物学者のアーシャ・デ・ボスさんが来日されて、スリランカのシロナガスについてお話されていたのですが、それを聞いてさらに興味が増しました。そもそも、地球上で一番大きな生物ということで昔から憧れもあったんですけど、スリランカに行くと確実に見られるものですか?」
中村「スリランカいいですよね。カリフォルニア半島も見られる頻度が高いっていいます。あと実は、南半球にいる個体のほうが10%ほど身体が大きいんですよ。ナガス、イワシとかもそうなんですけど、南半球に生息しているもののほうが一回り大きいんですよね」
田中「どうしてですか?」
中村「理由は定かではありませんが、海の生産量にも関係しているのかもしれません。北半球と南半球の個体群は基本的に交わらないので、同じ種であってもかなり違いが生じているようです。」
田中「知らないことばっかり!そういうこと知れるとやっぱり興奮しますね。これからももっとクジラについて学んでいきたいし、学んだことをどんどん発信していきたいです」

対談修了後は、東京海洋大学「マリンサイエンスミュージアム」および「鯨ギャラリー」の展示コーナーを巡りながら、引き続きクジラ談議を楽しんでいた田中さんと中村さん。クジラ愛が止まらないふたりゆえ、今後の動向からも目が離せそうにありませんね!
また、田中さんが所属している吉本興業では、クジラの街として知られる山口県下関市のおいしいクジラを使ったレトルトカレー「吉本興業社員食堂 よしもとカレー しものせき ぶちうま!くじら編」を販売中。吉本興業東京本部にある社員食堂でも人気のメニューですが、8月よりECサイトからも購入できるようになったので、ぜひチェックしてみてくださいね。

※東京海洋大学マリンサイエンスミュージアムおよび図書館より特別な許可を得て撮影、試食をしております。

▶前編 【くじらの日特別企画・前編】「ミナミセミクジラに海の大きさを学び、ザトウクジラの迫力に圧倒されて、コビレゴンドウに感謝の気持ちを抱いている」ココリコ田中直樹さん×東京海洋大学助教・中村玄さんスペシャル対談

▶田中直樹さん
田中 直樹(たなか なおき)
1971年大阪府豊中市生まれ。1992年に遠藤章造とお笑いコンビ「ココリコ」を結成。
テレビやラジオなど多くの番組に出演。映画やドラマなど幅広く活動している。また芸能界随一の「海洋生物好き」として知られている。

▶中村玄さん
中村 玄(なかむら げん)
1983年大阪生まれ埼玉育ち。東京水産大学(現:東京海洋大学)資源育成学科卒業
2012年東京海洋大学大学院 博士後期課程応用環境システム学専攻修了 博士(海洋科学)
(一財)日本鯨類研究所研究員を経て、2014年より東京海洋大学海洋環境科学部門で、助教をつとめる。
国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会委員。
専門は、鯨類の形態学。とくにナガスクジラ科鯨類の骨格。
著書「クジラの骨と僕らの未来」(理論社)他

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