耳ヨリくじら情報
近年、伊豆諸島付近でのザトウクジラ出現率が急増していることをご存知でしょうか?
そんな中、三宅島にて2024年の2月24日、専門家を交えてフォーラム、およびホエールウォッチングが開催されました。ザトウクジラの理解を深め、鯨類資源を利用した地域振興の事例を見ていく内容となっています。
ザトウクジラとは?
ザトウクジラとは、体長13〜15m、体重は30〜40トンにもなるヒゲクジラの仲間です。他のクジラと比べて大きな胸ビレと海面にあがってジャンプ(ブリーチング)をする種として、ホエールウォッチングでは非常に人気を集めています。
ザトウクジラは、日本では小笠原諸島や奄美大島でよく見られ、ホエールウォッチングが盛んに行われていましたが、近年伊豆諸島でも出現率が急増していることが発覚しています。専門家たちはそれぞれ調査を進めている地域の活動報告を行いました。
地域によってクジラの出現率や個体数、出現時期は様々。決まった時期で一定の個体数が継続的に目撃できるようになれば、ホエールウォッチングの事業化を考えていけるということになります。開催地となった三宅島は、2000年(平成12年)の「雄山」噴火が記憶に新しいですが、それ以前よりも観光産業の発展に注力するようになり、鯨類の出現が新たな冬季観光の“目玉”になるのではないかとして期待が膨らんでいます!
総合討論「鯨類資源の活用と地域振興について」
事業としてのホエールウォッチングはまだまだ本格的ではない三宅島。地域振興のためにもホエールウォッチングの事業化はぜひ検討したいところ。専門家たちとオーディエンスの間で鯨類資源の活用とその影響について討論会が開かれました。
ここではクジラの漁業への影響が熱く語られました。北半球に生息するザトウクジラは冬に南下して出産・子育てをしますが、その際エサをほとんど食べないため漁業に影響はないとされていました。
しかし伊豆諸島付近でエサを食べているように見える行動が確認されており、漁業への影響が懸念されています。現段階では判断材料も少ないため引き続き調査が必要な問題です。
クジラの海域間の移動についても議論が行われました。専門家たちはクジラの尾ビレの模様を記録して個体を識別します。同じ尾ビレの模様をしたクジラを別海域で確認して、クジラの移動ルートを追うことができるのです。クジラがどのように移動しているかを解明するには、各地域の専門家たちの連携が重要になります。
近年伊豆諸島にクジラが出現している原因についても話し合いが行われました。要因は主に2017年に始まった黒潮大蛇行の影響が大きいとされています。しかしこれは断定できるものではなく、様々な環境要素が重なって起きている可能性が高いと考えられています。今後も安定的にクジラたちが伊豆諸島へ来遊してくれるのであれば、観光業の発展に期待が寄せられます。
ホエールウォッチングと聞いて思い浮かべるのは船に乗って観察ポイントまで行ってウォッチングを行う方法ですが、三宅島では陸からもクジラを目撃することができるのです。瀬を好むザトウクジラは島に近づいてくれる上、三宅島のどの方角からみても満遍なくクジラを観察することができます。荒れやすい冬の海に出なくてもホエールウォッチングができるのは魅力的ですね!
実際に陸上からのホエールウォッチングを体験!
午後は専門家と一緒に島を一周しながら陸上からホエールウォッチングを実施。実際にクジラを観察しながら、生態などについての理解を深めました。
海をじっと観察すると、ぽっと煙のようなクジラの噴気が現れます。クジラは複数で行動するため、噴気は連続で2,3回現れ、海面からクジラの背中や尾ビレを覗かせます。
運が良いとジャンプをして体を海に叩きつけるブリーチングをみることができます!
水しぶきが上がると自然と歓声が沸きました。
くじらタウンスタッフもクジラの尾ビレの激写に成功!(写真中央部)海をじっと見つめて、噴気と共にクジラの尾ビレが現れた時には感動ものです。
運がよければクジラが海面に体を打ち付けるブリーチングを観ることもできるかもしれません。スタッフはブリーチングの水しぶきの撮影のみ成功しました。
また三宅島の報告の代表として専門家としてフォーラムに参加した菊地ひとみさんから写真を提供いただきました。クジラのブリーチングは大迫力です!
クジラはまだ謎だらけな生き物
なんとも神秘的なクジラは謎が多い生き物。研究途中の情報が多く専門家たちの中でも意見が割れることが多々あります。だからこそ惹きつけられますし、ホエールウォッチングで新たなクジラの魅力を見つけることができるかもしれませんね!
東京からほど近い三宅島では、‘‘陸からクジラを見ることができる’’というクジラを身近に感じられるレアなクジラスポット。三宅島で今後どのようなクジラの様子が見られるのか楽しみですね。
専門家紹介
加藤秀弘:国立大学東京海洋大学名誉教授、(一財)日本鯨類研究所顧問
シロナガスクジラ等の大型鯨類の資源生態を専門とし、現在ではIWC(国際捕鯨委員会)、科学委員会委員、IUCN(世界野生動物保護連合)鯨類専門グループ委員などを歴任。
松岡耕二:日本鯨類研究所 理事1992年より日本鯨類研究所に入所し鯨類の生態系調査を実施。2010年から2020年まで国際捕鯨委員会北太平洋鯨類生態系調査(IWC-POWER)調査団長を務める。2022年より三宅島を訪島し調査を続けている。
村瀬弘人:東京海洋大学 鯨類学研究室 准教授(一財)日本鯨類研究所、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所を経て2019年より現職
辻井浩希:(一社)小笠原ホエールウォッチング協会 主任研究員小笠原諸島父島に2017年に移住、現職場に入職。主に小笠原の海にくらす野生鯨類の基礎生態に関する、調査研究に従事。
興 克樹:奄美海洋生物研究会会長奄美クジラ・イルカ協会会長。珊瑚礁の保全やウミガメ類、鯨類の繁殖生態に関する調査研究、ホエールウォッチングやドルフィンスイム、ウミガメシュノーケリング等の海域利用の適正化推進に取り組んでいる。
勝俣 大貴:(一財)日本鯨類研究所 研究員東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科博士前期(修士)課程修了。同大学在学中に沖縄、奄美大島、八丈島に来遊ザトウクジラを対象に個体数推定や回遊移動に関する調査、研究に取り組み、2019年より現職に就き、北太平洋および南極海での鯨類目視調査、解析に従事。