「人間とは異なる時間軸を生きるクジラが、今この瞬間も唄いながら世界を旅していると思うと不思議な気持ちになる」絵描き・中川和寿さんinterview | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2022.08.31

「人間とは異なる時間軸を生きるクジラが、今この瞬間も唄いながら世界を旅していると思うと不思議な気持ちになる」絵描き・中川和寿さんinterview

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ロック・フェスティバルやミュージシャンのTシャツデザインから、女優の舞台出演時のノベルティ用イラスト制作にいたるまでの幅広いアート作品を手掛ける中川和寿さん。

2019年には、画業20周年の全国ツアーを敢行して、全国の画廊やギャラリーで作品をお披露目されていますが、イベント告知のチラシにはたびたびクジラが登場して、まるで中川さんと一緒に全国を旅しているかのようでした。もちろん、チラシだけでなく作品そのものの主役としてもクジラたちは大活躍。そこで気になるのが、中川さんがクジラを描き続けている理由です。そもそも、中川さんとクジラとの最初の出逢いとは? クジラのどんなところに惹かれたの? ご本人にお話を伺いました。

Cap ARABAKI ROCK FEST.17【磐越ステージTシャツデザイン】(写真上)

―― まずは中川さんがクジラを描き始めたきっかけを教えてください。

「もともと動物をモチーフに絵を描くことは多く、特に、マンタをはじめとする海の生き物が大空を自在に泳いでいるような作品を描くことは好きでした。そんななか、ある日、たまたまテレビで流れたクジラの空撮映像に目が釘付けになったんです。何の番組だったかももう思い出せませんけど、大海原にたゆたっているクジラが、まるで波間を羽ばたいているように見えたことは鮮明に覚えています。映像が流れたのはほんの一瞬だったけど、自分にとってとても印象的な出来事でした。そのすぐあと、ライブペイントの仕事で沖縄を訪れたのですが、12月から4月にかけてホエールウォッチングツアーが開催されていると知り、空き時間にいそいそと参加してきました。そこからクジラを描くようになったのですが、今はインターネットもあるからいろんな資料が手に入りやすいとはいえ、やっぱり自分の目で見たもののほうが、思い入れが大きいぶん、気持ちが入ったものを描くことができます」

(↑中川さんが沖縄で撮影したクジラ)

――本物のクジラを目の当たりにした感想は?

「感動はもちろん、怖い気持ちも少しありました。神聖で恐れ多いという感覚です。そのとき対面できたのはザトウクジラだったんですけど、ザトウクジラは唄でコミュニケーションをとるということも心に刺さりましたね。冬に沖縄で子育てをして、あたたかくなったら北のほうに回遊していくらしいんですけど、そうやって一生旅をするなかでも、唄を通して会話しているのかなと思うとぐっとくるものがあって、『whale song(クジラの唄)』のテーマでも作品を描くようになりました」

(↑中川さんが沖縄で撮影したクジラ)

――ザトウクジラの動きで印象に残っていることはありますか?

「巨大さゆえに、ヒレひとつ動かすにしてもすごくゆったりして見えたことが印象に残っています。クジラからしたらなにげない動きでも、人間の目からするとスローモーションに見えるのがすごく不思議でした。自分とクジラとでは、流れている時間のスピードが異なるようなイメージです。しかも、違う時間軸を生きる生き物同士が同じ空間にいるのがまた不思議。人間にとって身近な存在である犬や猫のように心を通わせることは難しいかもしれないけど、ちょっとでも近づきたい、理解したいという思いも芽生えました」

――コミュニケーションが叶うとしたら、クジラに訊いてみたいことはありますか?

「世界中いろんなところを旅していろんな景色を見ていると思うので、一番印象に残っているものを教えてほしいですね」

――クジラを描いていて難しいと感じるのはどんなところですか?

「目を描くのは難しいです。資料をアップにすることはできても、そこに宿った想いは画像からは拾い上げることができないですし、毎回時間がかかります」

――絵を描くための資料以外にも、クジラのことを知るためにいろんな書籍や映像作品などご覧になってこられたかと思うのですが、特におすすめがあれば教えてください。

「水口博也さんの『クジラ・イルカ生態写真図鑑』(講談社)は定期的に読み直しています。たまたま本屋で手に取った一冊なのですが、迫力ある写真も好きでかなり読み込んでいます。それと、クジラがテーマではないですが、五十嵐大介さんの『海獣の子供』(小学館)もお気に入りの一冊です。五十嵐作品にはかなり影響を受けてきています」

――クジラの背中から樹や建物がそびえたっている作品に込めた想いを教えてください。

「広大な海のなかでとんでもなく長い時間を過ごしているクジラには、時間の流れる速度が人間にとってのそれとは全然違うものに感じられるだけでなく、世界の感じ方そのものが違うように思えるんです。僕からしたら、背中に建物や植物や、その背景にある歴史を背負っているよう。“生き物を超越した”とでも言いたくなる存在です」

――今後、クジラをモチーフにどんな作品を作っていきたいですか?

「立体作品にチャレンジしたいです。木彫りだったり陶器だったり焼き物だったり、いろんな可能性が考えられますが、大きさにはこだわりたいですね。今までは、三次元に生きるクジラを二次元に落とし込んできましたが、次は自分の手を通して改めて三次元に作り直してみたいです。そのときにクジラがどんな表情を見せてくれるのかがすごく楽しみです」

――クジラと出逢い、作品に昇華させていくなかで、自分のなかで芽生えた想いや気付きはありますか?

「写真家の星野道夫さんが、文明に囲まれて暮らしてきた自分の時間軸が、アラスカの大自然を生きる動物たちの時間軸と交わるエッセイを書かれているんですけど、沖縄でクジラに出逢ったことで、星野さんの言葉がすっと腑に落ちるのを感じました。それ以降、自分がキャンバスに向かっている今この瞬間も、唄いながら世界を旅しているクジラがいるんだなという意識が常に頭の片隅にありますが、これはクジラに出逢わなければ得られなかった感覚だなと思います」

――ステキなお話ありがとうございました。最後に、中川さんの作品を間近に鑑賞できる展覧会情報などありましたら教えてください。

「8月に、仙台一番町のアトリエを、どなたでもご来場いただけるオープンギャラリー&アトリエ[OTOTOE]としてリニューアルオープンしました。前々からの構想がようやく実現した次第です。最新作はもちろん、初期の作品などもご覧いただけますし、日々、制作しているアトリエでもあるので、絵やデザインのオーダーなどについても気軽にご相談いただけるとうれしいです。また、10月2日まで開催中の『Reborn-Art Festival 2021-22』のオフィシャルグッズとして、空を泳ぐクジラのスノードームを制作しました。オフィシャルショップのほか、仙台藤崎でも、期間限定のポップアップショップにお目見えするそうなので、ぜひ会場を訪れてみてください」

Reborn-Art Festival×中川和寿 空を泳ぐクジラのスノードーム (写真上)

▶中川和寿
絵描き/ ペインター。仙台を拠点に活動。
ARABAKI ROCK FEST./10-FEET/G-FREAK FACTORY/hawaiian6/@
なおポップなど多数の音楽フェス/
ミュージシャンのデザイン・会場装飾を担当。また全国各地での個展、ライブペイント、ワークショップも行なっている。
仙台駅四郎デザイン/Design Tshirts Store graniph/graniph award2013 銀賞受賞/
各地仮設住宅・道の駅などへの壁画制作/2019 年、画業20 周年を迎え全国絵画展ツアーを敢行。
2022年、自身のアトリエをギャラリー&オープンアトリエ”OTOTOE”としてリニューアル。
HP:http://kazutoshinakagawa.jimdo.com
WEB SHOP :https://peliot.theshop.jp

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