【ここまで分かった南極海の鯨類資源】 遺伝子調査で判明したクジラの系群 大型鯨類の資源量で分布に変化 (日刊水産経済新聞2023年3月14日掲載) | 知る・学ぶ | くじらタウン

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2023.03.17

【ここまで分かった南極海の鯨類資源】 遺伝子調査で判明したクジラの系群 大型鯨類の資源量で分布に変化 (日刊水産経済新聞2023年3月14日掲載)

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鯨類には遺伝的に独立した種(Species)のもとに、繁殖場を異にしている「系群」があり、鯨類資源を適切に管理するうえで、系群構造を把握することが重要である。日本鯨類研究所では、南極海や北太平洋に分布する鯨類の系群構造を調べる調査を進めている。特に南極海では過去の商業捕鯨で大型鯨類の資源が激減したが、余剰となったナンキョクオキアミを小型のクロミンククジラが利用して、その資源を増大させ、南極海生態系の種構成が大きく変化したことが明らかになった。しかし大型鯨類の資源回復で、再び種構成の変化が起こりつつある。これらの変化について、紹介する。※詳しく知りたい方は「鯨研通信」(第492号)をご覧ください。

南極海のクロミンククジラの系群構造

 南極海鯨類捕獲調査(JARPA)の調査対象としたミンククジラは、当時は世界中で1種と考えられていたが、同調査により南極海のミンククジラは北半球のミンククジラと遺伝学的に別種であることが明らかとなった。現在はクロミンククジラと呼ばれている。クロミンククジラは南極海において少なくとも2つの系群が来遊し、I系群は南極海のⅢ区東、Ⅳ区、Ⅴ区西の海域に、P系群はⅤ区東とⅥ区西の海域に分布し、一部混在する海域のあることが明らかになった。(図1)

(図1)複数の異なる解析方法に基づいたクロミンククジラ系群構造の仮説

ザトウクジラの系群構造

 ザトウクジラは、豪州西に繁殖場をもつD系群と、豪州東-ニューカレドニア-トンガ周辺に繁殖場をもつE系群が、南極海の調査海域に来遊して混在していることが分かっている。

ヒゲクジラの分布に変化

資源量の大幅な増加が種の分布に大きく影響

数十年間で大幅に資源量が増えた「ザトウクジラ」と資源が安定している「クロミンククジラ」で分析したところ・・・・餌の取り合い?!

〈南極海インド太平洋域の調査区分〉

主にⅣ区とⅤ区で調査が進んでいる

(日本鯨類研究所提供)

〈調査海域IV区のザトウクジラとクロミンククジラの分布簡略図〉

1989~1994年ごろ Ⅳ区

1995年~2000年ごろ

2001~2005年

ザトウクジラは初期には主に調査海域北部に分布していた。中期には、生息域はより大陸棚外縁に近いところまで拡大し、後期には大陸棚外縁に沿って調査海域全体に拡がった。ザトウクジラの空間分布が拡大した一方、クロミンククジラの分布は縮小傾向にあるとみられている。これは、ザトウクジラの資源量が増える中でザトウクジラとクロミンククジラの間で生息域をめぐる競合があった可能性を示唆している。

脂皮厚に変化

 クロミンククジラは、夏季に餌場である南極海で大量のオキアミを捕食して、エネルギーを脂質として主に脂皮に蓄積する。その後、北上して低緯度海域の繁殖場で生殖にエネルギーを使う。これまでの調査で4689頭を対象に脂皮厚と脂肪重量を調べたところ、脂皮厚は年間0.02センチ減少、脂肪重量は18年間で17キロ減少していた。
 なぜか→胃内容物重量と脂皮厚は相関性があり、クロミンククジラが利用できる餌の量が減ってきた可能性がある。大型鯨類資源が回復してきたためか? 解明が待たれる。

餌は何を食べるか

 クロミンククジラは南極海の沖合域では、ナンキョクオキアミであるが、ロス海などの南に張り出した海域ではナンキョクオキアミに加えて、コオリオキアミを捕食している。年間で351万~398万トンものオキアミを捕食していると推定されている。南極海生態系は、資源の豊富なナンキョクオキアミを中心に構成されており、クロミンククジラ以外にも、シロナガスクジラやナガスクジラ、ザトウクジラなどのほか、カニクイアザラシやアデリーペンギンなども利用している。

◆南極海鯨類捕獲調査(JARPA、1987年~2005年)

 1982年、国際捕鯨委員会(IWC)が鯨類資源に関する科学的知見が不確実だとして、86年から商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)の実施を決定したことにより開始した調査。調査対象はクロミンククジラ。
 資源量や自然死亡率、加入率、南極海生態系での役割のほか、環境変化が鯨類資源に与える影響や系統群の分布範囲などを調査した。

◆第二期南極海鯨類捕獲調査 (JARPAⅡ、2005年~2015年)

 捕獲調査の対象は、クロミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ。
 クロミンククジラだけでなく他の鯨種との関係も調査する必要があるとして鯨種を拡大。南極海生態系のモニタリングや鯨種間競合モデルの構築などを目的に調査した。しかし、豪州の訴えで、2014年に国際司法裁判所(ICJ)が調査について評価しながらも目標標本数が確保されていないなどの理由で「国際捕鯨取締条約(ICRW)条約8条1項の規定の範疇(ちゅう)に入らない」と判決を出したため、同年この調査は終了。

◆新南極海鯨類科学調査 (NEWREP-A、2015年~2019年)

 ICJ判決を踏まえて策定した調査。IWC専門家レビュー、科学委員会の議論を経て実施。改定管理方式(RMP)を適用したクロミンククジラの捕獲枠算出のための生物学的・生態学的情報の高精度化と生態系モデルの構築を通じた南極海生態系の構造と動態の研究が目的。

◆南極海鯨類資源調査 (JASS-A、2019年~現在)

 日本国政府が従来実施してきた南極海における鯨類資源の持続的利用を目的とした資源調査(非致死的調査)を継続する調査。南極海における大型鯨類の資源量およびそのトレンドの研究および南極海における大型鯨類の分布、回遊ならびに系群構造の研究が目的。この調査から捕獲なしの非致死的調査のみの実施となった。現在、最新となる2010年代から20年代の資源量推定値更新作業を実施中。

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