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管理栄養士として、世界を股にかけて活躍するアスリートや女優をサポートしてきた新生暁子(しんじょう ときこ)さんは、自分が作ったものを食べてもらうことも、自分自身が食べることも大好き。同じく食への関心が高かったお父様の影響で、子どものころからいろいろな食材を食べる機会に恵まれていたといいます。そのひとつがクジラ。特にお父様が好きだったメニューに関しては、ご自宅でもよく召し上がっていた記憶があるのだとか。では、当時の新生さんにとってクジラ料理はどんなものだったのか? そして、大人になった今の新生さんにとっては? お話を伺いました。
料理を食べることも作った料理を食べてもらうことも大好きだから、栄養についてもっと知りたかった
――新生さんは36歳で管理栄養士としてのキャリアをスタートされていますが、きっかけはなんだったのでしょうか?
新生「大学を卒業してからはOLとして働いていたのですが、結婚を機に関西から東京に引っ越して以降、主人が働きに出ているひとりの時間に、手に職をつけようと考えるようになりました。なんで栄養士だったかというと、主人がアスリートということもあって食材の栄養に興味があったからです。それに、もともと料理はすごく好きだったし、作った料理を食べてもらうことも自分自身が食べることも好きだったので、知らないことを知りたいなという思いもありました」
クジラのおでんもハリハリ鍋も、子どものころからよく食べていた
――食への関心が高かったということは、クジラ料理も作ったり食べたりすることがありましたか?
新生「栄養士になる前から、普通に食材のひとつとして扱うことはありました。父がクジラが大好きだったから、実家でもよく食卓に出ていたんです。ベーコン、おばけ、さえずりはもちろん、関西ではおでんにもクジラが入っているので、自宅のおでんの具の定番でもありました。あとはハリハリ鍋! 家でクジラ料理といえばハリハリ鍋でしょう! うちは父が本当に好きだったので結構な頻度で食べていました。水菜とお出汁とクジラがあればできるし、当時はクジラがそんなに高価じゃなかったから、特にスペシャル感があるわけでもなく、見慣れた食卓の風景でした」
子どものころは正直クジラが苦手だった
――子どものころ、クジラ料理はお好きでしたか?
新生「正直、大嫌いでした。イルカだとかの小型のタイプになりますが、水族館で泳いでいるイメージが強かったから、いい印象を持てなかったんです。嫌いになった理由はイメージだけ。“これはクジラですよ”と言って出されなかったら好きだったと思います。実際、妹は水族館を泳いでいるイメージがなかったのか、クジラ料理が大好きでしたし」
子どもの好き嫌いはファーストインプレッションで決まりやすい
――そうだったんですね! ご自身の経験からも、子どもにクジラ料理を好きになってもらうのは難しいと思いますか?
新生「クジラ以外もそうですけど、子どもの好き嫌いは、まず食べる機会があるかどうかを含めて親の影響も大きいですが、それよりも大きな要素はファーストインプレッションです。初めて食べたときに、“ゲ! まずい!”と感じたら次はもう食べないですよね。しかも、そういう経験が重なると好奇心が止まってしまって、未知のものにトライしにくくなってしまう。そうなると、たとえばスポーツをやっているお子さんが海外遠征の機会に恵まれたとして、その国の料理を食べることができず翌日のエネルギーを担保できないと、活躍のチャンスを失うことにもなりかねません。すごくもったいないことですよね。そうではなく、どこにいっても強い子でいられるよう、親御さんも一緒になっていろんなものにチャレンジすることで、好奇心を養ってあげられるといいなと思います。クジラ料理に関しては、たとえば肉を小さくカットすることで“クジラっぽさ”が薄れるので、豚肉や鶏肉と同じようにおいしくいただきやすくなるので、ぜひおすすめしたいです」
たくさんの人にクジラを食べてもらえるよう、流通にも力を入れてほしい
――ちなみに新生さんは、今はクジラ料理がお好きですか?
新生「はい。主人も関西出身で子どものころからクジラを食べていたこともあって、家庭でも食卓に出すと喜ばれます。わたしが今住んでいる地域の魚屋にはクジラが並ぶことがあるので、主人の実家に贈ってあげることもありますよ。でも、昔に比べたら値段が高いし、なかなか手に入らなくなったので、もっと流通するようになるとうれしいです。いつも行くスーパーで買える食材でなければ、なかなかたくさんの人に食べてもらいにくいですよね。せっかく栄養価が高くて身体にいい食材なので、もっと多くの人に食べてもらえるよう流通にも力をいれてほしいです」
鉄分もタンパク質も豊富なクジラは、スポーツする子どもの身体作りにも役立つ
――クジラの栄養はお子さんの身体作りにも役立ちますか?
新生「もちろんです。クジラの赤身肉はかなりドリップが出ることが特徴的ですが、それだけ鉄分が多いということです。それに、タンパク質も豊富だからスポーツするお子さんにもうってつけです。同様に、大人にとっても美容や健康維持に役立つ食材ですよ」
カラフルな食卓を目指せば自ずと栄養バランスがよくなる
――身体にいいとはわかっていても、栄養を考慮して献立を決めるのが億劫だという人は多いですが、どうすればみんながもっと食を楽しめますか?
新生「栄養素のことをあまり考えないのがいいと思います。身体にいいからという理由でイヤイヤ食べることは決していいことではありません。たとえば、小松菜が嫌いなら代わりにほうれん草を食べたら十分です。栄養素のことを考えずにバランスのいい食事にするひとつのコツとして、“色を整える”こともおすすめです。緑の小松菜、オレンジのニンジン……といろんな色を取り入れてカラフルな食卓にすれば、結果的に栄養バランスもよくなります。見た目もキレイで子どもたちにも喜んでもらえると思うので、ぜひ試してみてください」
▶新生暁子さん
新生暁子(しんじょう ときこ)
Webサイト:https://tokikoshinjo.com/t_664599
短大・大学(編入)を経て、管理栄養士の免許を取得。
2008年 シドニーオリンピック金メダリスト高橋尚子率いる『チームQ』にて栄養・調理担当としてチームに加わり、日本・米国での合宿に帯同し、高橋さんをはじめとする4名の食事全般をサポート。後にフリーの管理栄養士として女優さんや様々なアスリート選手をサポート。
現在は、2019年より Jリーグ 横浜F・マリノスの栄養アドバイザーを務めている。