「初めてクジラを食べるなら、本当においしいものを食べてほしい」森嶢至さんinterview後編 | 聞く | くじらタウン

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2021.02.24

「初めてクジラを食べるなら、本当においしいものを食べてほしい」森嶢至さんinterview後編

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「クジラを食べることについてはどう思う?」という友人からの質問をきっかけに、クジラのことを真剣に考え始めたという森嶢至(たかし)さん。代表を務めている魚屋「寿商店」でも、それまでクジラを扱ったことはなかったといいますが、この一言をきっかけにクジラに興味を持ち、“日本で一番おいしいクジラ”を求めて大阪や東京にまで味見に行ったといいます。その結果、子どものときに食べたクジラとの差に愕然。「クジラがこんなにおいしいものだったとは……」と開眼した嶢至さんが、その後取った行動とは?後編では、クジラを扱い始めた寿商店のその後を中心にお話をうかがいます。

骨がないから肉と同じように簡単に料理できるところも、クジラの大きな魅力

――“日本一おいしいクジラ”を探し求めて色々食べてみた結果、「これはビジネスとしていけるな!」と考えた一番の理由は何だったのでしょうか?

「おいしかったのはもちろんですが、それに加えて魚屋的観点からいうと、歩留まりが100%なところです。可食部が1/3くらいの魚があるのに対して、クジラはほぼすべての部位を使えるから効率がいい。しかも、誰がさばいても同じなところもポイントです。下手な人がマグロを卸したらロスが生まれるけど、まるごと使えるクジラなら失敗がない。それに、マグロに比べて日持ちするし、調理が意外と簡単。骨がないから肉と同じレシピで料理できるし、子どもも食べやすい。それになにより、でかいものを食べられるっていうのはすごくうれしくないですか?人間以外にクジラを食べる生物なんていないわけだけど、『こんなに大きいものを食べているのか』っていう高揚感は味わえると思うんです」

食べてみてまずけりゃ食べないだけだから、お客さんが食べる前から心配する必要はない

――実際にお店でクジラ肉を提供するようになってから気づいたことはありますか?

「お客さんがクジラに抱く感想に対して、僕らが勝手に先入観持っていたんだな、ってことをまず気づかされましたね。たとえばうちの店にはレアステーキ丼っていうクジラメニューがあるんだけど、この肉が何なのかわからずに注文したお客さんがいても、その人がおいしいって思ってくれたらそれでいいんだから、僕らがあらかじめ『(本当に出しても)大丈夫?』なんて訊く必要ないんだなって。食べてみてまずけりゃ食べないだろうし、素材の提供自体を止める必要はまったくないってこと。以前、うちの近くの大学の学生さんが5、6人でランチを食べにきて、みんな一番安いレアステーキ丼を注文したことがあったんだけど、2回目にきたときにまた全員同じものを注文していたこともあったね。おいしかったらまた食べたい。それって、極めてシンプルでナチュラルなことだと思う」

クジラ肉の販売だけでなく、加工品製造にも力を入れたい。名古屋らしく「どて煮」も開発

――クジラ肉の販売もなさっているのですよね?

「そう。卸売りがメインだけど、電話で問い合わせてもらったら個人のお客さんにもお出ししている。最低1kgからなんだけど、『3kgください』って人もいるよ。あと、名古屋は味噌の文化なんで、『くじらどてに』を真空パックにしてオンラインでも販売しているんだけど、これはすごく評判がいいね。“シラハギ”っていう、筋とか肉片を取った残りの筋の部分を柔らかく煮こんでいるんだけど、とろっとしてすごくうまいの。コラーゲンもいっぱいあるし、これは商品化したらいいなと思って、一次加工したものを工場に出して、真空パックにしてもらっているの。ちなみに、なんで一次加工はうちがやるかっていうと、そのまま真空調理しちゃうと臭みが出るから。クジラを加熱調理する上では余分な汚れを取る工程がすごく大事なんだけど、これを省いちゃうとぷーんと匂うんだわ。手間はかかるんだけど、ボイルして余分な脂取ってキレイにすれば全然味が違うからね」

量では家畜には勝てないけど、ジビエやクジラも貴重なたんぱく源として存在すると知ってほしい

――クジラの食文化普及のために積極的にやっていきたいことはありますか?

「まず大事なのは、クジラのことを知ってもらうこと。そのためには、気軽にクジラ肉を買えるシステムを作ることが大切だと思っている。お店を出しているのはその実現のためだし、クジラを食べて『おいしい』と思ってくれる人がひとりでも増えてくれたらうれしいよね。でも、どんなにおいしいと思ってもらうことができても、やっぱり豚や牛、鶏だとかの家畜には勝てないでしょ?人間が食べたいだけ肉を作ることができるんだから。いのししだとかのジビエもそうだけど、家畜とは違うたんぱく源として、海にはクジラがいることを知ってほしいし、調理法は簡単で、味はおいしいってことを伝えていきたいね」

SNSでの発信は娘頼み。だけどいい動画が撮れたらみんなに観てもらいたいと思うことも

――クジラやそのほかの海の食材のおいしさを知ってもらうために、SNSも活用されていますね。

「そうね。基本的には、SNSは(寿商店で働く娘の)朝奈を推してって、こっちは裏方に回っているほうがいいかなあって思ってるけど。でもいい動画撮れて、あんま反応なかったからびっくりしとるんだけど、あれはいずれバズると思っている。徐々に響いてくると思うんだよね……(笑)」

クジラ肉を購入して自宅で調理する前には、冷蔵庫でゆっくり3日間ほど寝かせてほしい

――クジラ肉をお買い求めになるお客さまに伝えたいことはありますか?

「クジラは、なにより正しく解凍することが大事だってこと。無理矢理急速解凍すると固くなって食えないんですよ。共同船舶(株)から入ってくるものは、捕れたてを母船で瞬間冷凍しているから特に、急速に解凍しちゃうと、解凍をはじめてから死後硬直がはじまって固くなるから。そうすると、1週間かけても元に戻らないんですよ。だから、じっくり3日くらいかけて冷蔵庫で寝かせてほしい。そうすると全然違って『こんなに柔らかかったの?』って思ってもらえるから」

本当においしいものを食卓に出すことで、子どもの好き嫌いはぐっと少なくなるはず

――最後に、クジラ肉を提供する立場のみなさんに伝えたいことがあれば教えてください。

「一番言いたいのは、ファーストインパクトを大事にしてあげてほしいってこと。僕は子どものときに食べたクジラベーコンのまずい記憶があったから、『二度と食べたくない』って長年思っていたけど、食材ってなんでもそういうもんでしょ?以前、スーパーの魚屋で働いていたときに、いつも冷凍のカレイを買っていたとある奥さんが、『子どもはどっちみち食べないから安いやつでいいの』っていうから、『俺はそれちょっと違うと思うよ。今日はまけたげるから、一回こっちの獲れ立てのものを食べさせてみてほしい』って言って買ってもらったの。そしたら子どもは『今までのカレイと違う!』って喜んでバクバク食べたって。クジラだってそれと同じ。正しく解凍して本当のおいしさを引き出したら絶対食べると思うの。そこに高たんぱくだとか安全だとかの尾ひれがついているのはどうでもいいから、まずはうまいと思ってもらえるように、ファーストインパクトは大事にしてほしいね」

▶ 森嶢至さんinterview前編
「クジラの本当のおいしさを知ったのは大人になってから」

■森嶢至さん
株式会社寿商店 代表取締役社長。昭和55年創業。愛知県名古屋市に本社・本店を構え、鮮魚の卸売りの他、名古屋市を中心に飲食店12店舗を展開。

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