耳ヨリくじら情報

長崎は、古くから鯨食文化が根づいてきた地域として知られています。捕鯨が盛んだった時代から、ハレの日のごちそうや家庭料理として鯨肉が親しまれ、今でも多くの家庭でお雑煮や煮物に鯨を使う習慣が残っています。鯨は長崎の暮らしとともに歩んできた食文化であり、食卓を彩る特別な存在ともいえます。
その長崎で、鯨の“本当においしい味”を丁寧に伝え続けているのが、鯨料理専門店『割烹 とんぼ』です。繁華街の路地裏にひっそりと佇むお店ながら、足繁く通う常連が多い“隠れた名店”として知られています。店内は温かい雰囲気に包まれ、地元客や観光客など幅広い世代に愛されています。
店主の小嶺さんご夫婦が、鯨の部位ごとの個性や食べ方のおすすめを交えながら料理を提供してくれるため、初めて訪れる方でも肩ひじ張らずに鯨料理の魅力を楽しむことができます。
“鯨の良さがわかる店”を目指して
幼い頃から鯨が身近にある環境で育った店主は、長年さまざまな鯨を食べ比べてきた経験があり、どこで捕れた鯨が美味しいか、どの部位がおすすめかを熟知しています。
「鯨は育った環境で味も香りも変わります。良い鯨は香りが甘く、赤身こそ鯨の魅力が最もわかる部位。きちんとした知識で調理しなければ、本当のおいしさは伝わりません」と語る店主。
その言葉どおり、とんぼではその時々で状態の良い鯨肉を厳選して仕入れ、最も美味しい状態で提供できるよう細やかな調整を行っています。産地や部位によって味や香りが大きく変わるため、店主自身が確かな目で選び抜き、料理に最適なものだけをお客様のもとへと届けています。
その真摯な姿勢が評価され、遠方から通う常連客や海外からの来店も増え、口コミでも高い評価を得ています。
長崎ならではの鯨料理が楽しめる一軒

同店では、長崎の郷土料理であるハトシと鯨を組み合わせた一品や、肉じゃがを鯨でアレンジした「鯨じゃが」、さらに刺身やお鍋まで、多彩な鯨料理を味わうことができます。どの料理にも店主ならではの工夫が凝らされており、鯨を初めて口にする方にも親しみやすい味わいに仕上げられているのが特徴です。
ハトシ(長崎郷土料理×鯨)

長崎の郷土料理「ハトシ」は、本来エビなどのすり身を食パンで挟み、油で揚げた料理です。とんぼではこのハトシに、鯨カツを作るときにでた“切り出し”で作った鯨のしぐれ煮を加えた“とんぼ流”の一品となっています。パンで鯨を挟み、一晩寝かせてから丁寧に揚げることで、外はカリッと、中はふっくらとした食感に。鯨の旨みと香ばしさが重なり合う、同店を代表する人気メニューです。
鯨じゃが

今では長崎県内でも食べられる店が少なくなった鯨じゃがは鯨の背中部分の皮(皮須)を使用し、脂の甘みと旨味がじゃがいもにしっかりと染み込んだ一皿です。どこか懐かしさを感じる味わいで、長崎らしい家庭料理として多くの方に親しまれています。
刺身三点盛

さえずり・ベーコン・末広など、鯨の特徴的な部位を贅沢に盛り合わせた人気の刺身セット。部位ごとに異なる食感や風味を楽しめるほか、ポン酢でさっぱりといただくことで、鯨肉本来の旨味がより一層引き立ちます。
鯨鍋

畝須の上質な部分を使い、丁寧に煮込むことで出汁が濁らず透き通ったまま楽しめる鯨鍋。野菜と鯨肉の旨味がしっかりと溶け込んだスープは、締めの雑炊まで絶品で、カツオの出汁との相性抜群の味となり最後の一口まで満足感を味わえる一品です。
鯨食に込めた店主の思い
店主の小嶺さんには「鯨食文化を正しく伝えたい」という強い思いがあります。
「鯨は決して特殊な食べ物ではなく、誰でも美味しく楽しめる食材。良いものをきちんと届けることで、鯨をもっと身近に感じてもらいたい」と語ります。
長い経験で磨いた“良い鯨を見極める感覚”と、“素材を引き出す技”があるからこそ、同店には多くのリピーターが訪れます。料理へのこだわりだけでなく、お客様との会話を大切にしながら鯨の魅力を伝える姿勢も、とんぼならではの魅力です。
鯨文化を未来へつなぐために

「割烹 とんぼ」は、これからも鯨文化を次の世代へ受け継いでいく店であり続けたいという思いがあり、より多くの人に鯨のおいしさを知ってもらうため、店舗の拡張や昼営業の開始、百貨店での「鯨カツ」の限定販売といった新たな取り組みを計画中です。
「90歳までにやり遂げたいことがある。鯨の文化をきちんと未来へとつなげていきたい」
そう語る小嶺さんの姿勢からは、長い時間をかけて育んできた鯨食への情熱と、挑戦を続ける強い意志が感じられました。
長崎の鯨文化を受け継ぎながら、その魅力をより多くの人に伝えていく『割烹 とんぼ』。
本当においしい鯨料理を味わいたい方に、ぜひ訪れていただきたい一軒です。
■鯨料理専門店「割烹 とんぼ」
住所:長崎市銅座町11-13
営業時間18:00〜21:30(LO)
店休日:日曜日