【新クジラ探訪記/新潟編】(日刊水産経済新聞2023年3月24日掲載) | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2023.03.30

【新クジラ探訪記/新潟編】(日刊水産経済新聞2023年3月24日掲載)

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夏場の塩皮鯨(肉)の需要が著しく高い新潟県。同県出身者への取材でも、「両親が今も夏に鯨汁を作って食べている」「居酒屋で鯨汁を食べる」といった声が聞けた。少ない調査でも鯨食への高い意識を感じた。

 新潟市中央卸売市場の2022年の海産哺乳類(ミンク、ツチ、ゴンドウ、ニタリ、バンドウイルカ)取扱量は、生鮮・冷凍・塩干の合計で2万3800キロ、6973万1179円。18年以後は3万キロ前後で推移したが、22年は塩皮鯨の供給が少なく苦慮したもようだ。

鈴木課長代理

 同市場の卸・新潟冷蔵(株)冷塩部第三課の鈴木浩之課長代理は入社以来20年、鯨肉を扱う。
 縦に長い新潟県は、大きく、北から下越、中越、上越と、佐渡からなる4地域に区分される。
 塩皮鯨の消費は「中越が約5割、下越が3割、上越が2割。中越、特に山沿いで消費が多い」と鈴木課長代理。入社以来の変化について、「塩皮鯨の価格はナガスがかつての6割ほど、ミンクと同程度」と話し、今後については「子供たちが鯨食を身近なものに感じられる取り組みが必要。イベントや学校給食が重要」と話した。

エール君が描かれている「くじら学校」

 「ようこそくじら学校へ」と書かれた看板が出迎える新潟県上越市立上下浜小学校。校舎には同校のクジラキャラクター「エール君」が描かれている。1912年3月13日、地元・三ツ屋浜に全長30メートルのクジラが打ち上げられた。鯨種は今も不明。このクジラをなた、のこぎりなどを使って解体。集落の女性たちが遠く長野県まで鯨肉を売り歩き、売り上げで校舎の借金を返済した。
 同校の姥貝栄次教頭は、「子供たちは先人への感謝を忘れず、クジラが打ち上げられた日にはこの話の『小説くじら学校』著者小林甚三氏から話を聞き、地域の人の学校に対する熱い思いを受け継いでいる」と話した。校内にはクジラ資料館も設けられている。子供たちは学習内容をまとめ、ホームページなどにも掲載する。

姥貝教頭(左)と加藤介護員(右)
加藤さんの作った鯨汁

 かつては5年生が鯨汁を作り振る舞ったこともあった。取材当日、同校特別支援学級の加藤正子介護員が鯨汁を作り試食させてくれた。「家族も鯨汁が好き。夏野菜のユウガオもいちょう切りにして冷凍。周年、鯨汁が食べられように保存する。6月ごろから鯨汁を食べて夏に向けてスタミナをつけておく」という加藤さん。当日は同校教諭たちも鯨汁をごちそうになった。

斎藤社長

 新潟市中央卸売市場近くの総合食品卸・新印食品(株)。同店は周年、塩皮鯨を扱う。「ここに来れば必ずある」と多くの人が知っている。斎藤博之社長は、県民の塩皮鯨の好みについて「厚みと食感にこだわりがある人はナガス、その次がミンク、手頃なツチの順番」と、自身も「皮鯨の味噌漬が好きで自宅で作る」と言うほど、日頃から鯨肉を食べ慣れた人ならではのコメント。また、「昨今の食品価格の高騰を考えれば鯨肉は優等生」と話した。供給側の仲卸・大栄魚類(株)冷塩部・冷塩課の山田真紀課長代理は、「昨年、一昨年は十分な量を入手できなかった。今年は新型コロナも落ち着き、昨年よりは多くを販売できるのでは」と期待を寄せる。

山田課長代理
割烹山生の鯨味噌漬

 山田課長代理から聞いた市内の割烹(ぽう)・山生(山田茂樹店主)は常連さんも多く賑わう。3月のこの時期、鯨汁はないが鯨味噌漬を注文。本皮を味噌に漬けてスライスしたもので、かむたびに、ジュワッと口中に脂のうま味と薄い味噌の風味が広がった。

マリーンの売り場には各種塩皮鯨が並ぶ

「道の駅新潟ふるさと村」鮮魚センターで営業する(株)マリーン(立川太一店長)でも周年、塩皮鯨を販売。利用は観光客が約3割、県民が約7割。時には自家製味噌漬も販売する。「販売は圧倒的に夏場だが冬も売れていく。塊を購入していく人もいる」と立川店長は話した。

山間部の調理を話した木間店長

 県内でも鯨食が多いとされる中越地方。中でも人口が多い長岡市。同市で全国的にも著名な鮮魚専門チェーンストア・角上魚類(株)。長岡店ではニタリ赤肉を販売していた。「レアステーキで食べてもおいしい」と話すのは同店の木間宗久店長。塩皮鯨について聞くと、「販売は6月後半くらいから。夏野菜と一緒に煮る鯨汁は夏バテ防止のスタミナ食。山間部では油と炊くような調理で鯨汁を食べる」と祖母が作っていたというレシピを話した。

「鯨食文化を守っていく」と、五十嵐店主

 創業1966年の「鯨料理専門店 元祖くじらや」。「夏場の鯨汁はスタミナ食のイメージ。皮に厚みがあり、透き通った脂で軟らかくクセがないのがナガス。鯨汁はナスやユウガオを使うが脂のうま味をよく吸うからだと思う」と説明する。一方、「ニタリは赤身に肉の力がある」と、鯨種の特徴を話す五十嵐剛店主。食べ方や調理法で鯨肉のよさを引き出す料理人の顔がうかがえた。この3年ほどは、「新型コロナもあり厳しかった」というが、客は徐々に戻っている。現在はかつての約7割。予約時のみ営業している。南極海で反捕鯨団体が暗躍した頃は、鯨食への雰囲気が悪くなり、客足が5分の1程度まで激減。この時の悔しさを忘れることなく「どんなに苦しくても鯨食文化を守っていく」と熱い思いを述べた。

豆知識

味噌漬も郷土料理 (有)本町鈴木鮮魚

 本皮を使った鯨汁は夏場、ナスやユウガオなど夏野菜とともに食べるスタミナ食。味噌汁風の仕立てで、北海道道南地域の煮物風の鯨汁とは異なる趣き。また、本皮の味噌漬は、鯨肉特有の臭みなどもなく、脂のうま味が楽しめる。北前船文化の名残とされる同県の鯨食文化。鯨汁のほか、味噌漬も新潟の郷土料理といえよう。

 新潟市中央区の商店街「ぷらっと本町」にある青梅ショッピングセンターは鮮魚や飲食など6店が営業する。(有)本町鈴木鮮魚(鈴木正社長)ではナガス塩皮鯨1本(815グラム)、味噌漬スライス40グラムなどを販売していた。

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