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鯨類の生態や進化、人と鯨類との関わりなどについて最先端の研究に挑む学生が集う、『東京海洋大学』内「鯨類学研究室」。研究テーマは一人ひとり異なり、それぞれにとてもユニークです。具体的にどのようなことを研究しているのかを伺うインタビュー企画として、今回、4人の学生に登場いただいています。第4回目となる今回は、「イワシクジラとナガスクジラの可用性バイアス推定」について研究している鈴木ひよりさんのお話を伺いました。早速ご紹介していきます。
鈴木ひよりさん(修士課程1年)
研究課題「イワシクジラとナガスクジラの可用性バイアス推定」

――クジラの研究を始めたきっかけを教えてください。
「私は“海なし県”の埼玉県出身で、昔から海に対して憧れに近い感情を抱いていました。子どものころは、年一回の家族旅行で館山に行って磯遊びをするのが1年のうちで1番の楽しみだったくらいです。そこで、海洋生物を研究するためにこの大学に進みましたが、学部生の時に一か月間の乗船実習を経験したことで、船そのものに興味を持つようになりました。さらに、大学院進学前に海洋科学専攻科(※)に進み、その間にある3か月間にわたる遠洋航海で南極海を訪れました。航海士の資格をとるところまで船との関わりを突き詰める中で、調査するうえでは船が切っても切り離せないクジラという生物に興味を抱くようになりました」
※海洋科学専攻科・・・海上技術者になるために必要な専門的な知識や技術を学ぶ。修了すると航海士の免状である3級海技士(航海)の筆記試験が免除される。
――現在はどんなことを研究しているのですか?

「クジラの目視調査において、対象の海域にいる頭数を推定することが重要ですが、クジラが潜っている間、観察者はクジラを見つけることができないので推定される個体数が少なくなってしまいます。このことを専門的には可用性バイアスとよびます。正しい個体数を知るためには、このバイアスを補正することが大切で、これを知るためにはクジラの浮上間隔のデータが必要です。しかし私が研究の対象としている北太平洋のイワシクジラでは、これまで衛星標識を使って浮上間隔を調べたことがありませんでした。そこで、卒業論文の研究では、日本鯨類研究所からデータを提供していただき、この研究に取り組みました。イワシクジラの潜水深度は比較的浅く浮上間隔が短いため、結果として可用性バイアスの補正は必要ないことが示唆されました。修士論文の研究では、調べているイワシクジラの個体数を増やすことに加えて、ナガスクジラも対象にします。ナガスクジラはイワシクジラと比較すると潜水時間が長いため、もしかすると可用性バイアスの補正が必要になるかもしれません。衛星標識からは、潜水行動に加えて水平方向の遊泳行動データも得られるので、可用性バイアスだけではなく、これまでよくわかっていないイワシクジラとナガスクジラの生態も明らかにできる可能性があります。将来的には海洋生物の研究者として活躍したい気持ちがあるので、それぞれの研究を大切にしながら、クジラの資源管理への貢献はもとよりその生態を明らかにしていきたいです」

――クジラについて研究することの魅力を教えてください。

「クジラは大回遊を行い地球の広範囲に棲息しているので、“各個体が移動しながら大きなエネルギーを運んでいる”と捉えることもできます。これによって、海の生態系に大きな影響を与えているので、クジラを知ることは、地球全体の海洋生態系を理解するのにも役立つと考えられます。つまり、クジラを研究することは、地球を理解することにもつながります。このスケールの大きさは私が研究に取り組むモチベーションでもありますし、これからクジラを研究しようと考えている若い人たちにも、是非、クジラが生活している海洋ひいては地球にも目をむけてほしいなと思います」

「鯨類学研究室」学生インタビューにご登場いただいた4名ともかなりキャラが立っているため、聞きたいことを全部質問すると、到底1記事には収まりそうにありません。しかも、それぞれに独自のこだわりがあるため、「同じ研究室所属でもこうも違うのだなあ……」との感想を持つ読者もいるかもしれませんが、クジラに対する思いの強さは、登場した4人ともに共通するもの。今後、日本のクジラ業界に大きなインパクトを与える研究成果を発表してくれる可能性大なので、彼らの今後の活躍もどうぞお見逃しなく!
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