『東京海洋大学』「鯨類学研究室」所属の学生たちは、クジラについてどんなことを研究しているの? 学生たちにインタビュー③ | 聞く | くじらタウン

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2025.11.05

『東京海洋大学』「鯨類学研究室」所属の学生たちは、クジラについてどんなことを研究しているの? 学生たちにインタビュー③

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鯨類の生態や進化、人と鯨類との関わりなどについて最先端の研究に挑む学生が集う、『東京海洋大学』内「鯨類学研究室」。研究テーマは一人ひとり異なり、それぞれにとてもユニークです。具体的にどのようなことを研究しているのかを在籍中の4名の学生に伺うインタビュー企画。前回までは、「ツチクジラの集団遺伝解析」「ザトウクジラとナガスクジラのソング解析」を研究課題とする2人のインタビューを紹介しましたが、残る2人はどのような研究を進めているのでしょうか? 第3回目である今回は「ミンククジラの骨盤痕跡形態」について研究する山田芽以さんのお話を早速ご紹介していきます。

山田芽以さん(4年生)
研究課題「ミンククジラの骨盤痕跡形態」

――クジラの研究を始めたきっかけを教えてください。
「私はもともと海洋生物の骨への関心が高かったことから、学内の『海洋研究会』というサークルで魚類の骨格標本の作り方を教えてもらい、自分で釣った魚を骨格標本にすることを趣味として楽しんでいました。3年生の時に履修した学芸員の資格をとるための実習で、文化祭にきてくれた人に見てもらうための展示企画を考えることになり、実習を担当されていた中村玄先生に、骨の展示をやりたい旨を伝えました。すると、“そんなに骨が好きなら一緒に研究しようよ”とお声がけいただいたのがきっかけです。中村先生は鯨類の形態学がご専門なのですが、当時の私は哺乳類には興味がなく、ゼロからのスタートとなりました。しかし、フタを開けてみたら、クジラって水中に適応する過程で後ろ足が消失したり、水中で呼吸しやすいように、鼻の位置にあった骨が頭に移動していたりと、骨の謎を解き明かすためにはもっともいい研究対象であることがわかりました」

――学芸員の資格をとったのはなぜですか?
「私の場合、骨を知って骨を好きになったことが、生き物についていろいろ知るきっかけとなり、“骨を通した気づき”の魅力を実感できたので、学芸員として、骨を知りたい方の助けになりたいという思いがあります。将来は、学芸員の資格を活かして働くという選択肢もありますが、もっと先の未来には、自宅を改装して博物館を作りたいです。司書の資格も持っているので、館内の一画に本も置きたいですね。もちろん、クジラのコーナーも作ります」

イルカの頭骨標本の計測も行っている様子

 ――現在はどのようなことを研究しているのですか?
「卒業論文に向けて、過去の鯨類捕獲調査で採集されたミンククジラの骨盤骨(こつばんこつ)に関する研究をしています。骨盤の一番の役割は足と胴体をつなぐことで、それによって私たち人間は陸上で歩くことができますが、クジラは同じように水中で歩けたとしてもメリットはないので、身体をしならせて移動するよう進化しました。その結果、クジラの骨盤がかつて存在した位置には2本の棒状の骨が残っているだけです。そんなに小さくなった骨は機能していないと思ってしまいますが、実は生殖器を支える筋肉とつながっているなど重要な役割を果たしています。そのため、クジラの骨盤骨痕跡を調べることでわかってくることも沢山あるはずなので、現在は個体ごとの骨盤骨の長さや厚さを測定して統計をとっています。もちろん、単純に計測するだけではなく、厚みを測るにあたっては、筋肉がつく面積とどのように関係しているかなどにも注目します。また、立体である骨を3次元で正確な計測を行うのは難しいという課題もあるので、正しい結果を得るために3Dデータの処理方法を勉強したり、有効な計測方法を模索している最中です」

――クジラについて研究することの魅力を教えてください。
「クジラは環境への影響が大きい生物だと思うので、クジラの存在が海洋生態系に影響を与えているのかを考えてみるのもおもしろいと思います。他にも、哺乳類でありながら海で暮らしていて、しかも進化の過程で陸に上がってきたのに再び海に戻っているという特徴があるので、それがなぜなのかを進化学的に解き明かすのもおもしろいと思います。存在が大きい、かつ特殊な生き物なので、研究の幅も無限だと思います」

骨への関心からクジラを調べ、骨の謎を解き明かすためにはクジラがもっともいい研究対象だと思ったことから鯨類学研究室に入った山田さん。
クジラの骨盤骨の研究を通して、“骨を通した気づき”の魅力を多くの方に届けられるといいですね。

ラストとなる第4回目はイワシクジラとナガスクジラの可用性バイアス推定の研究を行う鈴木ひよりさんのお話をご紹介します。


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