聞く

2020.10.30

「本当においしいクジラの食べ方を知ってほしい」――『服部学園』理事長・服部幸應氏interview

Share :

日本で古くから食べられている鯨肉。地域によって差はありますが、子どものころに給食で食べたことがあるという人も多いでしょう。さらに時代を遡ると、戦後の食糧不足の時代、クジラは日本人にとって大切なたんぱく源でしたし、そのまた先祖たちもずっと、日本人はクジラの恩恵にあずかってきました。

わたしたち日本人にとって大切な鯨食文化。これを受け継いでいくために親の代から尽力されているのが、日本料理界の重鎮・服部幸應先生です。

服部先生のお父様は、現在、服部先生が理事長を務められている『服部学園』の創設者。また、お母様も料理の仕事に携わっていたため、子ども時代からご両親には多大な影響を受けたといいますが、その中でもよく覚えているのが、お父様が鯨肉を普及させる活動に力を入れていたこと。

鯨肉の臭み抜きは「すりおろした玉ねぎに30分漬けるだけ」

当時は、今ほど冷凍技術が発達しておらず、鯨肉のニオイが苦手という人も多かった時代。そこで、「すりおろした玉ねぎに30分ほど漬ければ、玉ねぎに含まれる硫化アリルが作用して臭みが消える」という臭み抜きの方法から普及させることを大切にしてきたそうです。

「初めて食べた鯨肉がおいしくないと印象が悪くなっちゃうから、本当においしい鯨肉を食べる機会を持ってほしいし、そのためには未来の料理人や飲食店の人たちに正しい扱い方を知ってもらうことが大事。そして、なによりもまずは、鯨肉を食べてみてほしいです。最近の若い人は不思議なことに、外国人がダメだというと、その意見に流される傾向にあります。だけど日本には、クジラから動物性たんぱく質を摂っていた歴史もあるのだし、食文化自体が異なるもの。そもそも、アメリカ人だってもともとは鯨肉を食べていたのに、歴史の流れの中でそれが無くなり、同時に日本に牛肉を売るために、日本人が鯨肉を食べることを批判してきたという背景がある。そうした事実をきちんと伝えていくことがまずは必要だと思っています。過激な団体は自分たちの過去のことには触れもせず、己の正義を振りかざして『動物がかわいそう』って言うけど、牛だって豚だって同じですよね。」

家庭でも簡単に作れる「くじらの竜田揚げ」

そう語る服部先生は、この日の取材のために、3種類の鯨料理を用意してくれました。

▲くじらの刺身(赤身と尾身)

まずは刺身。イワシクジラの赤身と尾身を交互に並べた一皿は、ご覧の通りの美しさ。「尾身」とは、字の通りクジラの尾の部分の肉で、1キロあたり7,000円から8,000円もする高級部位です。あまりのおいしさに、一枚一枚じっくりと味わって食べ進めたくなりますが、一緒にテーブルを囲んだ服部先生は、「僕はこうやって全部一緒に口に運ぶのが好きなの」と赤身、尾身の2枚重ねでペロリ。すりおろした生姜を入れた生姜醤油をたっぷりとつけていただくので、口の中いっぱいに濃厚なうまみとほどよい刺激が広がります。

▲クジラステーキ

こちら、ニタリクジラを使った「クジラステーキ」。中はレアで表面に焼き色をつけたステーキは、やわらかな食感で噛めば噛むほどうまみが広がり、日本酒や焼酎がほしくなること必至です。服部先生は、「濃いめの味付けだから白いご飯がほしくなるよね」と笑顔をのぞかせますが、ご実家でも小さいころから当たり前のように鯨肉を食べていたといい、鯨肉をおかずに食事を楽しんでいた当時を振り返ってくれました。

▲くじらの竜田揚げ

3品目の「くじらの竜田揚げ」に使われたのもニタリクジラです。片栗粉をまぶしてカラリと揚げられた竜田揚げは、ふんわりと柔らかな食感が魅力。丁寧に臭み抜きされているためニオイもゼロで、濃厚なうまみだけがしっかりと伝わってきます。竜田揚げ、ステーキともに、服部先生のお父様で料理研究家の服部道政さんのレシピで作っていただきましたが、そのうち竜田揚げのレシピをご紹介。ぜひ作ってみてください。

【くじらの竜田揚の作り方【くじらの竜田揚げの作り方】
●材料(5人前)
・クジラ赤肉 400g
・玉ねぎ、片栗粉 各100g
・砂糖 50g
・塩 小さじ1
・醤油 カップ1/2
・揚げ油 カップ3
・パセリ 少々

●作り方
<1> クジラ赤肉は厚さ5mm、タテ5cm、ヨコ3cmくらいの大きさに切って、おろし玉ねぎに30分間くらい漬けておく
<2>そこへ醤油、砂糖、塩を入れてよくかき混ぜ、30分間そのままにしておく
<3>30分間経ったらふきんに包んでよく搾り、前面に片栗粉をまぶしてカラリを揚げ、パセリをあしらって盛り付ける

伝統的なクジラの食べ方をしっかりと伝え続けたい

このレシピはもちろん、『服部学園』の授業でも長年生徒たちに伝授されているもの。「以前、フランス人の一流シェフが鯨肉を使って料理する場に立ち会ったことがあるんですけど、フランスには鯨肉を食べる文化がないから、見栄えはよくても全然ダメで。牛肉とは違って独特のニオイがあるから、それを消すにしろうまく活かすにしろ、クジラの本質的なことを理解していることが必要です。なのでうちの学校でも、伝統的なクジラの食べ方は日本料理の授業で必ず教えます。鯨肉は正しく扱わないと全然おいしくないですからね。卒業生の中には、うちの父が創業した『元祖くじら屋』の料理長になった子もいますよ」と明かしてくれました。

「今回は敢えて、父が作ったレシピで再現させてもらいましたけど、当時はNHKの『今日の料理』でも、クジラ料理というとうちの父が講師として出演していたんですよ。だけど、その後だんだんと海外の目がうるさくなってきたし、IWCでは、鯨食文化がない国からの圧力が大きくなってきましたよね。でもね、日本は決して間違ったことをしているわけじゃない。クジラが増えすぎると食物連鎖のバランスが崩れちゃうから 、適度に捕鯨することも大切なんです。もちろん、むやみやたらと獲るのはよくないから、しっかりと規制をかけながらやることも必要。そのうえで、いただいた命は大切に、これからもおいしく食べ継いでいってほしいなと思っています」

■服部幸應さん

1945年生まれ。学校法人服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長。医学博士。公益社団法人全国調理師養成施設協会会長、一般社団法人全国栄養士養成施設協会常任理事、一般社団法人全国料理学校協会会長、など数々の料理に関する団体を率いている。

Share :