「全国鯨フォーラム2025石巻」開催!学校給食やイベントでの鯨食普及が鯨文化を未来へつなぐ | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2025.11.19

「全国鯨フォーラム2025石巻」開催!学校給食やイベントでの鯨食普及が鯨文化を未来へつなぐ

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2025年11月1日(土)、宮城県石巻市で『全国鯨フォーラム2025石巻』が開催されました。
『全国鯨フォーラム』は、北海道・網走、千葉県・南房総、和歌山県・太地町、そして宮城県・石巻市でおこなわれている捕鯨文化の継承と商業捕鯨の再開を目指して2007年にスタートしました。今回は2021年以来となる石巻市での開催となりました。
石巻市は、明治時代末期から続く近代捕鯨100年の伝統を有する“鯨の街”です。

オープニングで挨拶した石巻市長 齋藤正美さんは、4年ぶりに石巻の地で開催された喜びとともに「クジラと共に歩む街づくりをしていきたい」と意気込みを語りました。

続いて登壇したのは、水産課捕鯨室長の槇隆人さんです。「捕鯨の文化を持つ石巻に来ていただき、クジラに触れ、鯨を食べていただくことで、捕鯨文化や捕鯨業を継承していきたい」と語り、出席者の士気を高めました。

テーマは「鯨文化を未来につないでいくために」

パネルディスカッションでは東京海洋大学の名誉教授で(一財)日本鯨類研究所顧問の加藤秀弘さんがコーディネーターを務めました。
パネリストとして東京家政大学教授で(一財)日本鯨類研究所理事の内野美恵さん、太地町立くじらの博物館館長の稲森大樹さん、石巻市食育推進会議会長の須能邦雄さん、(株)鮎川捕鯨社長の伊藤信之さん、外房捕鯨(株)鮎川事業所所長の大壁孝之さんの5名が登壇し、「鯨文化を未来につないでいくために」をテーマに「捕る」「食べる」「活用する」の3つの視点で現状や今後の施策について意見を交わしました。

まず初めに、稲森さんはご報告として、フォーラムの開催を契機として、石巻市の「おしかホエールランド」と和歌山県太地町の「太地町立くじらの博物館」が姉妹館提携を終結したことを明かしました。「両施設とも鯨類を専門とすることからそれぞれの分野で発展し、また鯨類資源の持続的利用の推進にも貢献していければ」と提携への意気込みを語りました。

「捕る」メロウドを増やすことが重要

続いて、「捕る」の視点では、最近の鯨の情勢と捕鯨業界の現状について意見が交わされました。
大壁さんは「今年はミンククジラを52頭捕獲しましたが、前年度の64頭に比べるとやはり少ないため、なかなか捕れていない状態」と外房捕鯨(株)の現状を話しました。
それに対して加藤さんは「仙台湾はかつてミンククジラが多かったが、現在ミンククジラが少ないのはメロウド(イカナゴの成魚)がいないからではないか」と指摘しました。

伊藤さんは、「震災前は全国から鯨関係の方がたくさん集まっていた。その活気を取り戻したいと思っている」と決意を表明。加藤さんは「まずメロウドを増やす作戦からやってもらえばミンククジラの捕獲が実現できるのではないか」と提案しました。
また、日本鯨類研究所による資源管理視点からみても、今年はミンククジラの発見数が少なく、回遊していないのではないかと説明がありました。

「食べる」学校給食などでの食育が大切

牡鹿半島の水産業における鯨類資源産物の位置づけと普及について、須能さんは「10歳前後で食の嗜好は決まっているということです。そのため学校給食で鯨食を提供することを実施してほしい」として「石巻では、学校給食に安く提供したところ、鯨食の枠が確立しました。ぜひとも学校給食を拡大して全国的に広めていきたい」と話しました。

実際に鯨食が提供された様子

石巻の他に和歌山県太地町でも学校給食で提供されており、稲森さんは「娘が通っている小学校中学校でも提供されていて、特に竜田揚げはクラス中に人気があると聞いてます」と太地町の学校の様子を話しました。

野生動物の生産物と鯨はどのように違って、デメリットがあるのかについてでは、内野さんは「イノシシやシカ、鶏や豚などは動物性の油、鯨は海のモノを食べているので魚の油です。動物性の油は捕りすぎると心筋梗塞等のリスクがあるといわれている」と語り、鯨の特長として「鯨はお肉を食べながら魚の油が捕れるという栄養的にとても魅力的な食べ物です。魚の栄養であるEPAやDPAも取れるので心筋梗塞の予防につながる」と話しました。

さらに、内野さんは東京家政大学での調査結果を紹介。
在学生の鯨食普及については「直近3年間100人にアンケートを取ったところ、鯨を食べたことがある学生が半数の結果でした。どこで食べたかというと、ほとんどが学校給食でした。なので東京都は比較的学校給食で食べられる機会がある」と話し、もし学校給食で食べられなかったら“鯨=食べ物”という認識がなくなってしまうのではないかと危機感を示しました。

『日常生活の中で鯨を選択して食べる』ことに対しての学生の所感はどうかという質問に対しては「鯨を食べた学生に聞くと、90%が美味しかったと言っており、またクセになる、やみつきになる味という回答が多いです。これは“繰り返し食べたい味”ということ」と話しました。ただ“もしスーパーで手軽に買える食材であれば毎週買って食べたい”といった声もあることも明かしました。
それに対して須能さんは、「学校給食はもちろんだが、イベント等で買える機会を意識的に作らないといけないと思います」と提案しました。
また共同船舶(株)の所社長は、「学校給食では竜田揚げが提供されることが多いが、揚げ方を間違えると硬くなってしまう。うちからはミンチもあるのでつくね等ミンチを利用して様々なメニューを給食で作っていただきたい」と呼びかけました。

赤肉を加熱する場合は「りんご」で漬ければ柔らかくなる

さらに内野さんは「初めに食べる鯨料理が美味しいと継続して食べるようになります」とし、鯨肉は硬くなりやすいという事に対して「りんご、特に紅玉をすりつぶしたもので赤身を2時間程漬け込むことでうまみが増し、柔らかくジューシーなお肉になる」と研究結果を説明し「イベントや学校給食では加熱したものでないと提供できないので、りんごのすりおろしを使えば“硬い”という所の解決策になるのではないか」と提案しました。

「活用する」鯨料理を食べてもらうことで鯨を観光資源として生かしていきたい

おしかホエールランドの山本さんは「鮎川に来られる方は金華山メインの方が多く、捕鯨のことを知らない人が多い」とし、「付近には鯨料理を提供しているお店も多くあるので様々な鯨料理を食べていただいて、その後におしかホエールランドでクジラを知っていただきたい」と話しました。

今後の捕鯨について、日本捕鯨協会の谷川会長は、「2019年に商業捕鯨になったものの、枠が少ないため、値段が下がらない。供給量が少ないのが課題」と課題を話し「鯨を食べて需要があるとなれば、数も増えると思うので、この機会に自治体で鯨を提供していただき、鯨を皆様に、全国に食べてもらいたい」と呼びかけました。

今年のパネルディスカッションでは、捕鯨業の現状から鯨食普及についての課題、解決策まで幅広く議論が行われました。
全国規模で学校給食やイベントでの鯨食普及が増えることで、クジラ業界の未来は明るくなりそうですね。

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