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2025.10.29

札幌でみつかった新種のクジラ!900万年前の進化の空白を埋める「サッポロクジラ」

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2025年8月、札幌市博物館活動センターと群馬県立自然史博物館を中心とする研究チームが「札幌から見つかった後期中新世の新たな巨大で原始的なセミクジラの新種について」と題した研究論文が米英の古生物学会などが発行する英文学術誌『Palaeontologia Electronica』に掲載されました。
このクジラ化石は新属新種「メガベリーナ・サッポロエンシス」(学名)と命名。和名は「サッポロクジラ」です。札幌市南区の後期中新世の約900万年前の地層から見つかったこの化石は、クジラの進化における“空白の時代”を埋める重要な発見です。札幌の豊かな自然と、市民・研究者の協力が発見につながった、サッポロクジラについてご紹介します。

札幌で新種の巨大クジラ化石を確認

札幌市博物館活動センターと群馬県立自然史博物館などの共同研究により、「メガベリーナ・サッポロエンシス」が新属新種として国際的に認定されました。
論文は古生物学の専門誌『Palaeontologia Electronica』に掲載され、日本だけでなく世界の古生物学者からも注目されています。
この化石は、札幌市南区の後期中新世(約900万年前)の地層から発見されたもの。セミクジラ科の化石としては世界でもトップクラスの保存状態を誇り、肩や指の骨まで見つかっているのは極めて珍しいといいます。

偶然の発見から始まった物語

発見時の写真

この発見の始まりは、2008年秋。札幌市南区を流れる豊平川の河原を散歩していた市民の方が、小金湯あたりで奇妙な形の岩に気づいたことがきっかけでした。
その岩を「動物の化石だ!」と感じ取った発見者は、3日後に化石の一部をリュックサックに詰め込んで札幌市博物館活動センターへ持ち込みました。
当時の学芸員・古沢仁博士によってそれがクジラの化石であることがわかり、長期にわたる発掘がスタートしました。

発掘作業 2009年

発掘作業は4年にも及び、さらに岩塊から骨を取り出す「クリーニング」に10年近くを要しました。
研究には市民ボランティアや大学関係者が加わり、まさに地域と研究者の協働による発見として完成へと導かれました。

サッポロクジラ(メガベリーナ・サッポロエンシス)とは

推定全長12.7メートルの大型種

発見された頭骨の幅から、全長はおよそ12.7メートルと推定。
現代のセミクジラ類は全長が約17〜20メートルですが、初期は全長5メートル程度と小さいものが多く、今回みつかったサッポロクジラはセミクジラ類の中で3番目に古い化石にも関わらず初期のものに比べ2倍を超える大きさでした。
学名の「メガベリーナ(Megabalaena)」は“巨大なセミクジラ”を意味し、「サッポロエンシス」は発見地・札幌に由来しています。

世界最高レベルの保存状態

クジラ化石は海底の堆積物に埋もれながらも、骨格の大部分が残っていました。
特に頭から腰まで見つかっており、化石として残りにくい肩や指まで保存された世界で最も良い保存状態のセミクジラ科化石です。

900万年前の空白を埋める存在

セミクジラ科の系統と推定した体サイズ。発表論文Tanaka et al (2025)を改変を引用

鯨類は約5300万年前には出現しているとされています。セミクジラ科はこれまで10種類程度の化石種が知られており、北海道からは2020年に新属新種として発表されたフカガワクジラ(学名はアーケオベリーナ・ドサンコ)と今回のサッポロクジラ(学名はメガベリーナ・サッポロエンシス)が発見されています。最も古い化石はアルゼンチンで発見された2,000万年前のものがあり、その次にカリフォルニアで発見されたものがおよそ1,600万年前のものです。その次に古いものが長野県で発見されたおよそ600万年前のものでした。セミクジラ科の歴史は2,000万年あるとされていますが、その間の約900万年間は化石がみつからない“空白の時代”が存在していました。
サッポロクジラはまさにその時代に生きていた種の発見となりました。

研究が明かした進化のヒント

現代のセミクジラ類の首の骨は本来7つあったものが、前後からつぶされるように癒合しており、7つの首の骨は一つの塊状になっています。ずんぐりとした体形で、首の骨が癒合し動かない特徴を持ちます。
一方で、メガベリーナ・サッポロエンシスの首の骨はまだ6つが独立しており、セミクジラ類の進化のなかで、首の骨の癒合が始まった “進化の初期段階”を示す構造でした。また、腕の骨が細長く、泳ぎ方も現生種とは異なっていたと考えられています。
このことから、セミクジラ科がどのように大型化し、海洋生活に適応していったのかを明らかにする鍵になると期待されています。

サッポロクジラを見てみたい方は・・・

サッポロクジラの実物化石と頭骨レプリカは、
企画展「世界一のセミクジラ化石」として北海道大学総合博物館にて巡回展が行われ、2026年1月25日まで公開予定です。
また、時期に関わらず、札幌市博物館活動センターでは、サッポロクジラの実物化石(部分)などを常設展示しており、年間を通して見学できます。

静かに眠っていた900万年前の命に出会える場所。
研究成果を間近で見られる貴重な機会です。

札幌で見つかった新種クジラ「サッポロクジラ」(メガベリーナ・サッポロエンシス)は、偶然の発見から15年以上をかけて研究者と市民が築き上げた成果です。
その姿は、太古の海の記憶を今に伝える“北のタイムカプセル”とも言えるでしょう。
もし札幌を訪れる機会があれば、ぜひ展示会場を訪れてみてください。
900万年前の海を泳いでいた巨大なクジラに、静かに思いを馳せてみませんか。

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