調査内容

日本は海に囲まれた島国であるため、古くから海と深く関わりながら生活してきました。海には魚や貝、海藻などたくさんの生き物がいます。日本人はこれらの生き物を貴重な食材として、昔から利用して来ました。鯨類(クジラやイルカの仲間)は、海の生き物の中で一番大きい哺乳類で、海洋生物の食物連鎖の頂点に位置しています。そのため、クジラについて調べることで、クジラの種類や数だけでなく、クジラの餌となる魚などの生物を通じて、現在の海の環境全体を知ることができるのです。今回はそんなクジラの研究について詳しくご紹介していきます!
鯨類専門の研究所!日本鯨類研究所って?

一般財団法人日本鯨類研究所(以下日鯨研)は、海の生き物の中でも特にクジラについて、様々なことを調べている組織です。日本では、日本政府の管理のもと捕鯨が行われていますが、その捕鯨を行うには捕っても問題はないと判断するための”科学的根拠”が必要です。
クジラの数を減らさず持続的に利用していくためには、クジラの健康状態やクジラの捕獲可能量の算出、国内流通や食品としての安全性など、多岐にわたる調査研究が不可欠です。日鯨研では、そんなクジラの利用・管理に必要な調査研究を行い、”指定鯨類科学調査法人”として科学的な知見を発表しています。
クジラを調べるのに必要な研究について
クジラの調査・研究は大きく分けて2つの部門に分かれています。
第1部門:クジラの捕獲可能量の算出
この部門では、北太平洋や南極海などの広い海に生息するクジラの頭数を計算し、充分な頭数が確認された種について年間何頭捕獲できるかを計算しています。
1. クジラの資源量(数)を把握する

まず、調査船で海に出て、クジラを目視で確認しながら数を数えます。こうして得られたデータは、数学者たちによって時間をかけて分析され、現在どれくらいのクジラが生息しているのかを正確に調べます。
2. サンプルを採取して詳しく分析する

捕鯨や目視調査の際に、クジラの皮膚などのサンプルを採取し、さまざまな分析を行います。その中のひとつにDNA分析があります。
同じ種類のクジラであっても、それが一つの大きなグループなのか、それとも複数の異なるグループに分かれているのかをDNAをもとに分析します。これにより、「もしこのグループのクジラばかり捕獲した場合に数が減ってしまうのか、それとも全体の数には影響がないのか」といったことを、集団遺伝学(※)という分野の研究を通して詳しく解明します。その結果をもとに、捕獲可能量を科学的に算出しています。
※集団遺伝学・・・生物の遺伝子(DNA)の仕組みや変化を、個々の生き物(個体)としてではなく、同じ種類の生き物の集まり(集団)として捉えて研究する学問のこと
第2部門:クジラの健康状態と繁殖能力の調査

この部門では、クジラ一頭一頭の健康状態を詳しく調べています。地球温暖化の影響でエサが減ると、クジラが痩せてしまい子どもを産むことができなくなる可能性があります。
そのため、それぞれのクジラが何を食べているか、栄養状態がどうなっているかを分析します。具体的には、遺伝学的情報、形態学的情報、生態学的情報などの収集・分析をすることで、クジラが健康で繁殖可能な状態にあるかどうかを判断します。そして翌年にどのくらい個体数が増える見込みがあるかを判断し、資源としての優良性を評価しています。

その他にもクジラの胃内容物の調査も行っています。(写真はイワシクジラの胃内容物(サバ類))
エサの変動から、海洋生態系全体の基盤の変化を把握することができます。例えば、特定の海域でクジラの採餌行動が変化したり、体が痩せたりする傾向が見られた場合は、その海域での餌が減少している可能性が高いことを示唆します。
こうした情報をもとに、海の生態系のバランスが崩れていないか、何か問題がおこっていないかどうかを判断しています。
海洋生物資源全体の管理への貢献

クジラに関するこれらの詳細な情報は、単にクジラ自身の保全だけにとどまらず、より広範な海洋生物資源の適切な管理と持続可能な利用に不可欠な基盤情報となります。
漁業資源への間接的な示唆
クジラが特定の魚種を捕食している場合、クジラの健康状態や個体数の変化は、その餌となる魚種の資源量にも間接的な影響を与える可能性があります。クジラに関するデータを活用することで、漁業対象種を含む海洋生態系全体の健全性を評価し、より総合的で科学的根拠に基づいた漁業管理戦略を策定できます。
国際協力と政策提言
クジラは国境を越えて広範囲を移動するため、その保護と研究には国際的な協力が不可欠です。クジラ調査で得られたデータは、国際捕鯨委員会(IWC)などの国際機関や各国の政府に対して、海洋環境保護や資源管理に関する科学的な根拠に基づいた政策提言を行う上で、非常に重要な情報となります。
このように、長寿命であり、食物連鎖の頂点に位置するクジラの調査・研究は、単一の種の研究にとどまらず、地球規模の海洋環境変動を理解し、将来にわたって海洋生態系の健全性を維持するための、極めて重要な役割を担っています。
次回からはそれぞれの研究について詳しく解説していきます。
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