【クジラ探訪記④】山口県・下関市(日刊水産経済新聞2021年12月28日掲載) | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2022.01.19

【クジラ探訪記④】山口県・下関市(日刊水産経済新聞2021年12月28日掲載)

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▶連載 ④「クジラ〝産業〟の町・下関」

九州などへ中継拠点

下関といえば真っ先に思いつくのが、いま旬を迎えているフグだが、それに負けないほどクジラの知名度が高い。広報役を担う下関市の岸本充弘下関くじら文化振興室長によると、同市とクジラの歴史は古く、約2000年前の弥生時代中期には骨を加工して「アワビおこし(採捕道具)」として使用されていたことも分かっている。山口県内の日本海側・長門の古式捕鯨「鯨組」が誕生してからは鯨肉や骨などを下関に集め、北前船に搭載。骨は薩長同盟を結ぶ薩摩に送られ、畑の肥料などに使われた。
 長崎・生月の西海捕鯨「益富組」は営業所を下関の問屋街に置いたことから、西海捕鯨の鯨肉の中継基地でもあり、自然と下関に流通文化が生まれた格好だ。その後、明治新政府はロシアの南下政策に対抗するため日本海での捕鯨を支援してきたという歴史もある。
 昭和時代の商業捕鯨では、下関に本拠を構え、捕鯨業に進出した林兼商店(後の大洋漁業、現マルハニチロ)のクジラの城下町として栄えた。その後、捕鯨の縮小に伴って、鯨肉の入荷も少なくなり、調査捕鯨時代には調査捕鯨船の基地として、クジラ文化をつないできた。平成に入るとフク(フグ)、ウニとともにクジラを市の三大水産物の一つとして盛り上げる機運を高め、現在もその流れが続いている。こうした歴史を踏まえ岸本室長は、「その地域でクジラを獲って根付いた文化とは異なり、産業中心の文化であることが特徴。人口が多い北九州などへ塩クジラなどを供給する役割が強かった」という。

▲下関の文化を紹介する岸本室長

資料展示室を開設 ◆長府庭園

下関郊外の城下町・長府。かつては長府毛利藩の家老格であった西運長(にし・ゆきなが)が屋敷として構えていたが、その後に下関を拠点とした林兼商店の創業者・中部幾次郎氏が買い取って邸宅とした。今年10月には「鯨資料展示室」を開設。1936年に初めて南極海に出漁した海図など中部家が保有していた資料35点が下関市立大学鯨資料室に寄贈されたが、多くの人に見てもらいたいと一部を展示することになった。
 案内役を務める竹本章氏によると、「目玉は捕鯨母船・日新丸の積量図(レプリカ)。船内にある11の鯨油タンクやおがくず倉庫の存在が確認できる」という。ほかにも漁場日誌や捕鯨用海図、旧大洋漁業の捕鯨船として62年に建造された第25利丸で使用された機器や模型が並び、商業捕鯨初期の歴史を間近で感じることができる。
 もう一つ紹介したいのが下関市立しものせき水族館「海響館」だ。たくさんのフグの仲間やスナメリ、ペンギンなどが出迎えてくれるが、館内でひときわ目を引くのがシロナガスクジラ(成体)の全身骨格標本だ。成体かつ全身骨格の実物は国内でも極めて珍しい。地球上最大の動物だけに迫力の大きさで、子供から大人まで圧倒される。
 シロナガスクジラだけでなく、バンドウイルカやオウギハクジラ、マッコウクジラの全身または一部の骨格を見ることができ、それぞれのクジラの生態や進化の過程などが分かる仕組みとなっている。観光スポットである唐戸市場からも程近く、訪れたい観光地だ。

▲シロナガスクジラの骨格標本(下関市立しものせき水族館「海響館」提供)
▲資料のある長府庭園の蔵
▲航海機器などが展示されている

生肉入荷で賑わい ◆下関くじら館

歴史、文化とともに楽しみたいのが味だ。「下関」「鯨料理」といったキーワードで料理店を検索すると、100軒以上が表示され、決して大きくない範囲でも多くの店が提供していることがうかがえる。
 11月16日未明に下関漁港地方卸売市場に初めて大型鯨種であるイワシクジラの生肉が入荷した。尾の身には最高キロ12万円の高値が付けられた。同日午前から市内を中心に早速販売され、目当てにした客が朝から駆け付ける姿も。下関駅から程近いクジラ料理専門店である「下関くじら館」でも生肉を使った特別メニューを提供した。
 2日間限定の生クジラコースは4500円(税別)で、ローストとちらし寿司、刺身とミンククジラの竜田揚げというセット。尾の身が入った刺身にすると1000円増しだが、訪れた客のほぼ全員が尾の身を選んだ。常連客は「いつもの料理もおいしいが、生肉は違ったよさがある」と舌鼓。「うちの味」という竜田揚げは、食してみると軽やかながらクジラのうま味が詰まり、この地で長く提供してきたことがうかがえる一皿だった。
 小島純子店長は、「生肉を扱うのは久々。同じ部位でも異なるため、考えながら調理した」という。生肉は限定販売だが、通常でも本皮の大根煮や上質赤肉のルイベ、竜田揚げ、塩クジラの茶漬けに加え、サエズリや百ヒロ、ベーコン、オバイケといった刺身や珍味を提供している。地元客のみならず、観光客からも人気の店だ。
 店内には「商業捕鯨再開」の横断幕や、小島店長による国際捕鯨委員会(IWC)参加を紹介するボード、クジラ民芸品なども展示。昨年の「鯨フォーラム」開催時にはサエズリなどを使った鯨ラーメンも発売するなど、さまざまな世代に多くの形で鯨食文化を発信している。
 同店のような専門店だけではなく、割烹(ぽう)旅館・寿美礼といった格式高い店やJR下関駅構内の食庵しものせきのようにふらっと食べられる店、さらにフレンチ、インド料理、居酒屋、寿司屋と幅広い業態でクジラ料理を提供しているのも特徴の一つ。市内ではクジラ肉まんやソーセージ、缶詰なども販売されており、多くのシーンでクジラを食することができる。

▲鯨食拡大に取り組む小島店長
▲イワシクジラ生肉は刺身でも提供
▲常連からも評判の竜田揚げ

豆知識

商業捕鯨が再開される頃、食用にできない製品在庫の有効活用を図るため、産官学による鯨油の高度化利用に向けた協議会を立ち上げた。注目されているのが 「鯨油キャンドル」 だ 。法令など商品化に向けステップを踏んでいる段階だが、キャンドルナイトのイベントなどに提供して知名度を高めている段階で、今年のハロウィンなどでも各所にお目見えした。実際に火をともすとクジラ独特の香りが 広がり、「将来的には下関の地域資源に」との声が上がっている。

▲ハロウィーンイベントなどで重宝された

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